2020年 03月 31日
こんなときには、フュネス |
日本ではあまり知られていないけれど、フランスでは絶大な人気を誇る俳優にルイ・ド・フュネスがいる。60年代から70年代を中心に活躍し、70年代後半から病を得ながらも俳優活動を続け、1983年に亡くなった。享年68歳。
彼の出演した映画は、はっきりいうならドタバタ・コメディだ。登場人物はしょっちゅう大声で叫んでいるし、人を叩いたり物を壊したりといった荒っぽい場面も多い。しかもフュネスが演じる登場人物は例外なく「イヤな奴」なのである。偉ぶった経営者、上の者にはあからさまにゴマをすり下の者には容赦無く怒鳴りつけて権威をふりかざす中間管理職。父親役をやれば子どもをコントロールしたがるガミガミ親父になる。金に目がなく、ずる賢く、自分の利にはとことん聡く、己の価値観に疑いを持たず、何が起ころうと強かに世を渡って行く。こうやって書いていても親近感を抱かせる要素がほとんどない。それなのに、本当に不思議なのだけれども、彼の演じる役はなぜだか嫌いになれない。嫌いになれないどころか、いつのまにか「まぁこういう人もいてもいいかもね」なんて気にすらなる。そんな彼の笑いは、亡くなってから37年も経った今でも衰えることなく、世代を超えて人を惹きつけている。
外出規制が始まってから、複数のテレビ局がこのフュネスの映画を放送している。我が家は息子たちもこの俳優のファンなので大半の作品はもう観て知っているのだけれども、知っていてもまた見返してみたくなるのがフュネス。この機会にまた見ようということで昨夜も家族揃ってテレビの前に陣取って、2時間弱を笑い転げて過ごした。
映画をみている間は、登場人物と一緒になって南仏の風を感じたり、NYの摩天楼を見上げたりしている気になって、外出規制下にあることなんてすっかり忘れてしまう。さらに腹の底から笑っていると、溜め込んでいたかもしれないストレスすらいつのまにか霧消しているのである。笑うって精神衛生上とても大事なことなのだなぁとつくづく思ったのだった。
笑いとは関係ないところで、わたしはこの俳優の滑舌の良さも好きだ。今の俳優みたいに口の中でもごもご喋らないし、語尾にへんな抑揚をつけたりしないし、セリフも発音も話し方も安心して聞いていられる。この気持ちの良さは、残念ながら今のテレビや映画ではほとんど味わえない(内容はともかく、話し方が我慢できなくていやになってしまうことも多い)。ファブリス・ルキーニみたいな俳優は、今はとても貴重なのだ。
La grande Vadrouille(邦題「大進撃」)の1シーン。
ナチス占領下のパリでイギリス空軍兵を匿うことになったオペラ座の指揮者。イギリス兵はハープ奏者に扮しており、ピアノの前に座っているのが指揮者役のフュネス。
Le grand restaurant(邦題「パリ大混戦」)の有名シーン。
フュネスはレストランの支配人役。ドイツ人客にジャガイモのスフレの材料を教える。
by poirier_AAA
| 2020-03-31 23:30
| 観る・鑑賞する
|
Comments(2)
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Mtonosama at 2020-04-01 05:25
日本では志村けんがコロナで亡くなり、TVは彼のことばかり。
その中でひげダンスを何度も何度もやるのですが、
つい笑ってしまいます。
亡くなった人のコントが笑いを引き起こす・・・
なんか不謹慎な気がしてましたが、笑ったっていい。
こんな時だからこそ、笑いたいですよね。
だから小池都知事の「(志村けんの)最後の貢献」という言葉に
ひっかりを覚えました。
その中でひげダンスを何度も何度もやるのですが、
つい笑ってしまいます。
亡くなった人のコントが笑いを引き起こす・・・
なんか不謹慎な気がしてましたが、笑ったっていい。
こんな時だからこそ、笑いたいですよね。
だから小池都知事の「(志村けんの)最後の貢献」という言葉に
ひっかりを覚えました。
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poirier_AAA at 2020-04-01 20:26
> Mtonosamaさん、こんにちは。
最後の貢献って、それはちがうだろうっていう気がしますねぇ。日本の政治家って、言語感覚が鈍いというか使い方が下手な人が多いなぁと思います。言葉はうまく使えばすごく力のあるメッセージを送ることができるのに、彼らは名言ではなくて失言で印象に残ってしまうんですもん。
フュネスもそうですが、亡くなった後でも人を笑わせてくれるような人の芸って、根っこがやさしいですよね。人を貶めて笑うのではなくて、自分の可笑しな姿で笑わせようとしているからでしょうか。志村けんもきっと温かい人だったんじゃないかなぁと思っています。
最後の貢献って、それはちがうだろうっていう気がしますねぇ。日本の政治家って、言語感覚が鈍いというか使い方が下手な人が多いなぁと思います。言葉はうまく使えばすごく力のあるメッセージを送ることができるのに、彼らは名言ではなくて失言で印象に残ってしまうんですもん。
フュネスもそうですが、亡くなった後でも人を笑わせてくれるような人の芸って、根っこがやさしいですよね。人を貶めて笑うのではなくて、自分の可笑しな姿で笑わせようとしているからでしょうか。志村けんもきっと温かい人だったんじゃないかなぁと思っています。