2017年 11月 09日
カルカソンヌ |
カルカソンヌに行って来ました。
「カルカソンヌ」とここでわたしが呼ぶのは、
正確には「歴史的城塞都市カルカソンヌ(cité)」であり、
小高い丘の上に建つ、城壁と塔で周りを囲まれた街をさします。
今は行政区としてのカルカソンヌ市が存在するので、
それと区別するためにこういう呼び方をするのです。
車の窓から遠くカルカソンヌの城塞が見えたときは、
思わずホォと感嘆のため息が出ました。
なだらかに続く大地の中ほど、
小高く盛り上がった丘の上に、隙のない佇まいで城塞があります。
ひとつ前の記事で紹介したアルビが教会の権威を具現しているとすれば、
カルカソンヌが具現しているのは、ここを守り抜くという強い意思です。
小高い丘に位置するだけでも攻めるのは難しいはずですが、
地の利だけではありません。
城塞のあらゆる場所に敵を防ぐための様々な工夫が施されています。
自分が攻める側だったら、間違いなく長期戦を覚悟するでしょうし、
もし守る側だったら、あるいは付近に暮らす住民であったなら、
この城塞があるというだけで相当心強かったのではないかと思います。
この場所に最初に城塞都市ができたのが、紀元前のガロ=ロマン時代だそうです。
その後、西ゴート族、ムスリム、フランク族などの手に次々と渡り、
やがてはフランス王領に組み込まれるわけですが、
なぜこの城塞がそこまで欲しがられたか、
そして、なぜここまで堅固な城塞でなければならなかったかといえば、
ここが地理的に要となる大事な場所だったからなのでした。
北はモンターニュ・ノワール、南はピレネー山脈に挟まれ、
カルカソンヌは地中海と大西洋をつなぐ線上に位置します。
さらに、ピレネーの向こうにはスペインがあります。
中世以降は、特にスペインの侵入を阻む大事な役目があったのです。
しかし、機能美というのでしょうか、
「なんとしても守ってみせる!」という強い意志とともに、
防衛のために考え抜かれた合理的な美しさが感じられるように思います。
二重に張り巡らされた見事な壁も、そこに配置された塔も、
つり橋から門に続く曲線も、
門の前、あるいは橋の前に設置された広場も、
塔の円柱の壁の外に面した部分の凸起も、
ガロ=ロマン時代に作られた塔の窓が大きく、
中世に作られた塔の開口部が少ないことも、
すべては軍事的な理由があってのことです。
この街が経てきたであろう数々の防衛戦、
その戦の容赦なさ、その際に人々が感じたであろう恐怖などを
想像しないではいられません。
にもかかわらず、無骨さよりは優美さを感じるのです。
1659年にピレネー条約が締結され仏西の国境が定まると、
南の守りの要であったカルカソンヌは急速にその勢いを失い、
一時はかなり荒廃したそうです。
城壁の石を勝手に崩して自分の家を作るために使う人もいたとか。
その荒廃ぶりを嘆く人がおり(その一人が作家のメリメでした)、
やがて大規模な修復が行われ、現在の姿になりました。
兵どもが夢の跡。
そんな言葉がふっと浮かびました。
かつての難攻不落の城塞都市、カルカソンヌも、
いまは石畳の道の両側に土産屋が軒を連ね、
名物のカスレの写真を店先に飾ってお客を誘うレストランが並び、
現代的な観光案内所とチケット売り場を持つ、
南フランスの魅力的な観光名所です。
(北フランスならモン・サン・ミシェルでしょうか)
わたしたちはお城と主だった城壁は個人で見て回りましたが、
城壁の一部と門、街の一部、そして教会はガイド付きで見学しました。
この時のガイドさんがとても良かったです。
年の頃は70ほど、かつては学校の歴史の先生だったのではと思うような、
よく響くはっきりした声の明快な説明ぶり。
しかもこの女性、芝居っ気もたっぷりで、
ときに西洋の浄瑠璃(そんなものがあれば)を聞いているようでした。
歴史の先生がこんな人だったら授業もさぞ面白いことでしょう。
日が暮れると、あっという間に観光客の姿がなくなります。
暗い街の中にハロウィンの仮装をした子どもたちが出現しました。
グループでお店をまわって、キャンディをねだっているようでした。
ハロウィンはまったくもって好きになれませんが、
日が暮れた中世の街並みの中で出会う小さな死人や魔女の姿は、
商業主義のいやらしさを脱ぎ捨てて、
ふっと別の世界からやってきた存在のようにも見えて、
すこしばかり怖いような不思議な感じもしたのでした。
月の美しい夜でした。
暖かい料理でお腹を満たしてから、
ぐっと冷え込んだ空気の中、後ろ髪引かれる思いでシテを後にしました。
by poirier_AAA
| 2017-11-09 07:15
| フランスを歩く
|
Comments(8)
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haru_rara at 2017-11-09 17:42
灯りのともった街の写真に心ひかれます。
ご家族で何を召し上がったのでしょう。
日本も月のきれいな晩が続いて、もしかしたらあのときの月が梨の木さんの見た月かしら、となにか不思議な温かな気持になりました。
ヨーロッパは行ったことがないのです。
ガイド付きで私も歩いてみたい。
ご家族で何を召し上がったのでしょう。
日本も月のきれいな晩が続いて、もしかしたらあのときの月が梨の木さんの見た月かしら、となにか不思議な温かな気持になりました。
ヨーロッパは行ったことがないのです。
ガイド付きで私も歩いてみたい。
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fusk-en25 at 2017-11-09 22:07
もちろん「カスレ」は食べたのね。。笑。
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kohada
at 2017-11-09 22:41
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以前にコメントをしたことのあるkohadaです。今回の旅行のルートが、3年ほど前に私が双子の妹と一緒に出かけたフランス旅行の前半ルートと重なるところがあり、とても懐かしく拝読しています。次はどちらの町のお話になるのでしょうか。読書に関連づけた話題:以前に梨の木さまが紹介なさっていた帚木 蓬生の作品の中に、この地域を舞台にした小説「聖灰の暗号」、フランスの歴史を題材にした小説を書いている佐藤 賢一氏による「オクシタニア」、いずれも旅行前に読み面白かったです。旅の続編、楽しみにしています。
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poirier_AAA at 2017-11-09 22:43
> haru_raraさん、こんにちは。
この日はこれだけ月が綺麗なくらいですから放射冷却もすごくて、6時ごろに日が落ちたらひゅ〜っと寒くなりました。レストランが開く7時まで、一所懸命歩きまわって待ちました(足を止めると寒さが身にしみるのです)。あんまり寒かったので、この日は迷わずオニオン・グラタン・スープを頼みました。熱々のスープをハフハフしながら食べているうちに、ようやく指先と鼻先が温まりましたよ。
ヨーロッパ、いつか是非いらしてください。
ハルさんの目を楽しませる景色や色が、きっとたくさん見つかると思います。
フランスならわたしもfuskさんもいますからね〜!
この日はこれだけ月が綺麗なくらいですから放射冷却もすごくて、6時ごろに日が落ちたらひゅ〜っと寒くなりました。レストランが開く7時まで、一所懸命歩きまわって待ちました(足を止めると寒さが身にしみるのです)。あんまり寒かったので、この日は迷わずオニオン・グラタン・スープを頼みました。熱々のスープをハフハフしながら食べているうちに、ようやく指先と鼻先が温まりましたよ。
ヨーロッパ、いつか是非いらしてください。
ハルさんの目を楽しませる景色や色が、きっとたくさん見つかると思います。
フランスならわたしもfuskさんもいますからね〜!
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poirier_AAA at 2017-11-09 22:46
> fusk-en25さん、こんにちは。
この日は胃の調子が悪くて、とてもカスレを食べる気分になれず。でも、さすがに名物をほとんど食べずに旅行を終えるのは酷すぎると思って、最終日に1回だけカスレを食べました。美味しかったけど、すごい量でした(笑)。
わたしは1回しか食べなかったけれど、男性陣はたしか3回か4回くらいずつ食べてます。ものすごく胃の丈夫な人たちなのです。
この日は胃の調子が悪くて、とてもカスレを食べる気分になれず。でも、さすがに名物をほとんど食べずに旅行を終えるのは酷すぎると思って、最終日に1回だけカスレを食べました。美味しかったけど、すごい量でした(笑)。
わたしは1回しか食べなかったけれど、男性陣はたしか3回か4回くらいずつ食べてます。ものすごく胃の丈夫な人たちなのです。
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poirier_AAA at 2017-11-09 22:57
> kohadaさん、こんにちは。
kohadaさんもこの辺りを旅行されたのですね。中世の街並みが残り、自然も美しくて、素晴らしい場所ですよね。
「聖灰の暗号」も「オクシタニア」も、名前だけはチェックしながらまだ読んでいないのです。いつか是非読んでみようと思っています。このあたりの土地の歴史がもう少しよくわかったら、さらに旅も楽しくなるでしょうね。あと、地理ももう少し勉強したいなぁと思っているのですが。。。
旅行記、わたしのはあまり上手くなくて申し訳ないのですが、頑張ってもう少し続けてみます
「楽しみにしています」と書いていただいて、すごく嬉しかったです。
kohadaさんもこの辺りを旅行されたのですね。中世の街並みが残り、自然も美しくて、素晴らしい場所ですよね。
「聖灰の暗号」も「オクシタニア」も、名前だけはチェックしながらまだ読んでいないのです。いつか是非読んでみようと思っています。このあたりの土地の歴史がもう少しよくわかったら、さらに旅も楽しくなるでしょうね。あと、地理ももう少し勉強したいなぁと思っているのですが。。。
旅行記、わたしのはあまり上手くなくて申し訳ないのですが、頑張ってもう少し続けてみます
「楽しみにしています」と書いていただいて、すごく嬉しかったです。
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Ich
at 2017-11-11 18:05
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カルカソンヌ・・懐かしい響き! 記憶を辿ってみると夕方にオード門の方から登って行ったよう・・・。梨の木さんのいろいろな写真で思い出しています(*^^)v
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poirier_AAA at 2017-11-13 07:31
> Ichさん、こんにちは。
Ichさんもカルカソンヌに行かれたのですね。オード門から登られたのならシテの城壁に着く頃には「頑張って歩いたな〜」という感じだったでしょう。でも、それもまた忘れがたい思い出になりそうですよね。
写真、あまりにも下手で申し訳ないのですが、少しでも思い出していただけたのなら載せて良かった!です。
Ichさんもカルカソンヌに行かれたのですね。オード門から登られたのならシテの城壁に着く頃には「頑張って歩いたな〜」という感じだったでしょう。でも、それもまた忘れがたい思い出になりそうですよね。
写真、あまりにも下手で申し訳ないのですが、少しでも思い出していただけたのなら載せて良かった!です。