2017年 07月 18日
政略結婚で知らない土地へ |
今年の夏休みの読書、1冊目はファンタジーを選んだ。
Gallimard jeunesseとRTL、Téléramaの3社が共同で主催した文学賞で
Christelle Dabos「Les fiancés de l'hiver」
(クリステル・ダボス「冬の婚約者たち(直訳)」)
見事グランプリを獲得したというこの作品、
実はこれ1冊では完結しておらず、作者が続きを書き続けている。
この夏、ちょうどシリーズの3作目が出たところだ。
シリーズ1作目にあたるこの本は、
主人公オフェリーの婚約が決まったところから始まる。
オフェリーは小柄で、近眼ゆえにメガネをかけている。
特技は物の来歴を読むこと。
彼女が指で触れると、過去にその物に手を触れた人の心の動きがわかる。
古い世界の、今となっては使い道すらわからない遺物であっても、
彼女ならそれに触れた人の考えたことを読み取ることで、
その物がどんな用途でどのように使われていたかを明らかにできるのだ。
彼女はそれを天職のように考えている。
だから他の女性のように着飾って男性の気をひくことには興味がない。
そんな彼女に突然結婚話が舞い込む。
相手は遠く離れた地に住む、まったく知らない男性だ。
断るという選択肢は最初からない、要するに政略結婚なのだが、
彼女も彼女の家族もその事情は何も知らされない。
やがて婚約者が彼女を連れにやってくる。
この婚約者が感じのいい人ならシンデレラ物語になりそうだが、
現れたのは不愛想でろくに口も開かない社交性に欠ける男性で、
おまけに連れて行かれた異国の地は、
彼女の生まれ育った土地とは習慣も仕組みもまったくちがう。
勝手がまったくわからない世界に一人放り込まれ、
唯一頼りになりそうな婚約者は不愛想でとりつくしまもなく、
ただでさえ心細いのに加えて、
彼女は自分に害をなそうとする人間に囲まれていることに気がつく。
一体何がどうなっているのだ?
一体誰を信じたらいいのか?
主人公だけでなく、読んでいるこちらまでクラクラする。
本当に面白いのかね?とあまり期待せずに読み始めた本だったが、
後半5分の3はほとんど一気読みした。
一気読みして終わっても完結しないので、
いや、完結しないどころかこの1冊目は導入部にしかすぎないので、
続きが読みたくて読みたくて、気が狂いそうな気持ちを味わっている。
新しい世界に入っていく不安や、
よく知らない人と言葉を交わすことの緊張、
自分が考えていたものとは違った姿が見えてしまった時の驚愕、落胆、困惑。
ファンタジーを読みながら、こういう経験って覚えがあるな、と思う。
10代の子どもたちなら、こういう物語の中の別な世界を疑似体験することが
現実世界を生きぬくための予行練習になるのかもしれない。
よくできた物語を読むことは、頼りになる友達を持つようなものかな。
あぁ早く続きが読みたい。
by poirier_AAA
| 2017-07-18 22:00
| フランス語を読む
|
Comments(2)
Commented
by
Mtonosama at 2017-07-20 06:16
楽しい夏休みになりそうですね。
そんな夢中になれる本がみつかるといいな♪
私が最近読んだ本で面白かったのは車谷長吉の妻・高橋順子さんが書いた亡夫についてのエッセイです。車谷さんって結構やばい感じだと思っていたし、その作品もいまいち好みではないのですが、高橋さんの明るい調子に車谷作品をもう一回読んでみようかなという気になりました。
そんな夢中になれる本がみつかるといいな♪
私が最近読んだ本で面白かったのは車谷長吉の妻・高橋順子さんが書いた亡夫についてのエッセイです。車谷さんって結構やばい感じだと思っていたし、その作品もいまいち好みではないのですが、高橋さんの明るい調子に車谷作品をもう一回読んでみようかなという気になりました。
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poirier_AAA at 2017-07-20 15:38
> Mtonosamaさん、こんにちは。
車谷長吉って読んだことはないのですけど、なぜか「迂闊に手を出したらダメだ」とずっと思っていて(「赤目四十八瀧心中未遂」の話を友達から聞いたせいかも)。いつか読んでみようとは思っているのですが。
奥さんの高橋順子さんは詩人なんですね。夫も妻も感性が鋭くて、それでお互いにバランスが取れていたのかなぁなんて思いました。こちらもぜひ読んでみたいです。
おもしろそうな本の情報、本当に嬉しいです。またお願いします!
車谷長吉って読んだことはないのですけど、なぜか「迂闊に手を出したらダメだ」とずっと思っていて(「赤目四十八瀧心中未遂」の話を友達から聞いたせいかも)。いつか読んでみようとは思っているのですが。
奥さんの高橋順子さんは詩人なんですね。夫も妻も感性が鋭くて、それでお互いにバランスが取れていたのかなぁなんて思いました。こちらもぜひ読んでみたいです。
おもしろそうな本の情報、本当に嬉しいです。またお願いします!