2012年 09月 02日
わかがえりのいずみ |
という昔話の本を読んだ。
おじいさんが山に仕事に行く。暑い日で喉が渇いたので泉を捜したら、岩のかげに澄んだ水が湧いている場所があった。冷たい水が乾いた喉をうるおすのが気持ちよく、おじいさんはごくごくと水を飲んだ。と、ふと水面に映った顔を見て吃驚仰天。すっかり若返って逞しい若者となった自分が映っている。
おじいさんはおばあさんに泉の場所を教える。それじゃあわたしも若返ってきましょう。おばあさんも山に入る。あったあった、これが若返りのいずみだわ。おばあさんは泉の水をごくごく、ごくごくと飲む。しわのよった腰の曲がった姿が、たちまち若い頃の美しい姿に変わった。ああ嬉しい。でも、もうちょと、もうちょっと若くなりたい。おばあさんは水を飲む。
やがて、なかなか戻って来ないおばあさんを心配したおじいさんが泉にやってくる。ばあさんやーい、どこにおるんじゃ。呼んでも呼んでも返事はない。と、岩陰から赤ん坊の泣き声がする。なんと、おばあさんの着物にくるまって生まれたばかりの赤ん坊が泣いていた。
若者になったおじいさんは、赤ん坊を連れ帰って、大事に世話をしましたとさ。
‥‥というお話。
子どもが言う。
おばあさんはどうしてそんなに水を飲んだの?
あかちゃんになりたかったの?
6歳の子どもには、若さを惜しむ気持ちはわからないよね。
若い姿をとりもどしたおばあさんが、水に映った自分をうっとりと眺めている。
おばあさん綺麗だよね。こんなふうに綺麗だったら嬉しいよね、という。
そうだねぇ、と相づちを打つわたしに、続けて言う。
ママンもこの水を飲んだらもっときれいになるのにね。
えっ、そうなの?
いつもママンは綺麗って言ってくれるじゃない?
うん、きれいだよ。
でも、きれいなんだけど顔にぷつんぷつん(しみそばかす)があるじゃない。
それがなくなったら、もっと綺麗だと思うよ。
息子たちがあんまり毎日好きだ、綺麗だと繰り返してくれるので、
恋は盲目なんだねぇと図々しく思いこんでいたわたしである。
盲目じゃなかった。ちゃんと現実は見えていたんだねぇ。
それでも甘い言葉を繰り返してくれたのは、恋ではなくて身びいきだったんだ。
女たるもの、甘い言葉に甘えていてはいけません。
自分の衰えは自分が一番良く気づいている。
老いを止めることはできなくとも、気持ちよい姿でありたい。
水を飲み過ぎて赤ちゃんになってしまったおばあさんの気持ちが悲しい。
欲張りばあさんじゃないと思う。
若くて元気な自分をおじいさんに見てもらいたいという、女心じゃないかな。
それが、ついつい度を超してしまった。
その気持ちが痛いほどわかったから、おじいさんはちゃんと赤ちゃんを連れ帰って大切に世話をしたんだろうと思う。
ちょっと切なく、でもいいカップルの話。
若返りの泉がもし本当にあったら試してみたいかな?
外見だけ若くなりたい?
それとも精神的にもすべて年齢相応に昔に戻りたい?
いろいろ考えてしまった。
老いを考える年になってきたんだなぁとしんみり思う母親の耳に、6歳の息子の声が入ってきた。
パパ、あのね、年をとりたくなかったらね、水をたくさん飲むといいんだよ。
たくさんたくさん飲むとね、若くなるんだよ。
瞠目すべき若さ。未熟であるってこんなにも眩しい。
おじいさんが山に仕事に行く。暑い日で喉が渇いたので泉を捜したら、岩のかげに澄んだ水が湧いている場所があった。冷たい水が乾いた喉をうるおすのが気持ちよく、おじいさんはごくごくと水を飲んだ。と、ふと水面に映った顔を見て吃驚仰天。すっかり若返って逞しい若者となった自分が映っている。
おじいさんはおばあさんに泉の場所を教える。それじゃあわたしも若返ってきましょう。おばあさんも山に入る。あったあった、これが若返りのいずみだわ。おばあさんは泉の水をごくごく、ごくごくと飲む。しわのよった腰の曲がった姿が、たちまち若い頃の美しい姿に変わった。ああ嬉しい。でも、もうちょと、もうちょっと若くなりたい。おばあさんは水を飲む。
やがて、なかなか戻って来ないおばあさんを心配したおじいさんが泉にやってくる。ばあさんやーい、どこにおるんじゃ。呼んでも呼んでも返事はない。と、岩陰から赤ん坊の泣き声がする。なんと、おばあさんの着物にくるまって生まれたばかりの赤ん坊が泣いていた。
若者になったおじいさんは、赤ん坊を連れ帰って、大事に世話をしましたとさ。
‥‥というお話。
子どもが言う。
おばあさんはどうしてそんなに水を飲んだの?
あかちゃんになりたかったの?
6歳の子どもには、若さを惜しむ気持ちはわからないよね。
若い姿をとりもどしたおばあさんが、水に映った自分をうっとりと眺めている。
おばあさん綺麗だよね。こんなふうに綺麗だったら嬉しいよね、という。
そうだねぇ、と相づちを打つわたしに、続けて言う。
ママンもこの水を飲んだらもっときれいになるのにね。
えっ、そうなの?
いつもママンは綺麗って言ってくれるじゃない?
うん、きれいだよ。
でも、きれいなんだけど顔にぷつんぷつん(しみそばかす)があるじゃない。
それがなくなったら、もっと綺麗だと思うよ。
息子たちがあんまり毎日好きだ、綺麗だと繰り返してくれるので、
恋は盲目なんだねぇと図々しく思いこんでいたわたしである。
盲目じゃなかった。ちゃんと現実は見えていたんだねぇ。
それでも甘い言葉を繰り返してくれたのは、恋ではなくて身びいきだったんだ。
女たるもの、甘い言葉に甘えていてはいけません。
自分の衰えは自分が一番良く気づいている。
老いを止めることはできなくとも、気持ちよい姿でありたい。
水を飲み過ぎて赤ちゃんになってしまったおばあさんの気持ちが悲しい。
欲張りばあさんじゃないと思う。
若くて元気な自分をおじいさんに見てもらいたいという、女心じゃないかな。
それが、ついつい度を超してしまった。
その気持ちが痛いほどわかったから、おじいさんはちゃんと赤ちゃんを連れ帰って大切に世話をしたんだろうと思う。
ちょっと切なく、でもいいカップルの話。
若返りの泉がもし本当にあったら試してみたいかな?
外見だけ若くなりたい?
それとも精神的にもすべて年齢相応に昔に戻りたい?
いろいろ考えてしまった。
老いを考える年になってきたんだなぁとしんみり思う母親の耳に、6歳の息子の声が入ってきた。
パパ、あのね、年をとりたくなかったらね、水をたくさん飲むといいんだよ。
たくさんたくさん飲むとね、若くなるんだよ。
瞠目すべき若さ。未熟であるってこんなにも眩しい。
by poirier_AAA
| 2012-09-02 19:43
| 子どもと暮らす
|
Comments(8)
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Mtonosama at 2012-09-02 20:20
「わかがえりのいずみ」ってフランスの昔話ですか?
日本の「舌切雀」のおばあさんも大きいつづらを選んで
ひどい目に会いましたが、女の人って欲張りだって言いたいのかなぁ。
息子さんたち、身びいきじゃないですよ。
ママンはホントにきれいだから、きれいって言ってくれるんです。
うちの息子たちはそんなこと言ってくれたことないですもん。子どもって小さいなりに美の基準を持っているんです。
って、自分で書きながらなんか悲しい・・・・・
日本の「舌切雀」のおばあさんも大きいつづらを選んで
ひどい目に会いましたが、女の人って欲張りだって言いたいのかなぁ。
息子さんたち、身びいきじゃないですよ。
ママンはホントにきれいだから、きれいって言ってくれるんです。
うちの息子たちはそんなこと言ってくれたことないですもん。子どもって小さいなりに美の基準を持っているんです。
って、自分で書きながらなんか悲しい・・・・・
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yumiyane at 2012-09-02 21:43
私もコップ一杯くらい飲みたい。
戻りたい時点はありますよ。高校1年の3学期。かなり具体的でしょ。
進路の分かれ目でした。
でも、今思うに、どっちに行ってもそこそこだったんだろうな、ってね。
無邪気がどんどん鍛えられて行くんですね。
戻りたい時点はありますよ。高校1年の3学期。かなり具体的でしょ。
進路の分かれ目でした。
でも、今思うに、どっちに行ってもそこそこだったんだろうな、ってね。
無邪気がどんどん鍛えられて行くんですね。
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saheizi-inokori at 2012-09-03 09:48
坊やは赤ちゃんになったパパを大切に育ててくれるかな^^。
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poirier_AAA at 2012-09-03 16:30
>mtonosamaさん、こんにちは。
これは日本の昔話なんですよ。
女性って欲張りかもしれませんねぇ。でも、わたしはこのおばあさんのことは不快に思えないのです。強欲っていやぁねぇ、ではなくて、女の性って哀しいなぁと思いながら読みました。
うちの息子たちがわたしを持ち上げるのは、そうすると母親の機嫌がよくなると経験的に知っているからではないかと。子どもって、大人が想像するよりずっと丁寧に大人を観察していると思うんですよ。子どもにおだてられて今日も木に登る母親なのです〜(笑)
これは日本の昔話なんですよ。
女性って欲張りかもしれませんねぇ。でも、わたしはこのおばあさんのことは不快に思えないのです。強欲っていやぁねぇ、ではなくて、女の性って哀しいなぁと思いながら読みました。
うちの息子たちがわたしを持ち上げるのは、そうすると母親の機嫌がよくなると経験的に知っているからではないかと。子どもって、大人が想像するよりずっと丁寧に大人を観察していると思うんですよ。子どもにおだてられて今日も木に登る母親なのです〜(笑)
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poirier_AAA at 2012-09-03 16:44
>yumiyaneさん、こんにちは。
そこまで時期を特定できるほど、yumiyaneさんにとっては大きい転換点だったんですね。
わたしはどうかなぁと考えてみるに、独りでいた時代に戻っても多分同じような選択しかできなかったと思います。でも、他人の生活と自分の生活が混ざり合う結婚は、ひょっとすると分岐点だったかもしれません。結婚したいと言ってくれた人が何人かいたので、もしそれを受けていたら今頃どんな生活をしていただろうと考えることがあります。(少なくとも外国暮らしにはならなかったでしょうしね)といって、選べと言われたらやっぱり今の夫を選んでしまうかもしれませんが。
人生の選択肢って無限にあるようで、実は必然に近いのかもしれないと、ちょっと思います。
そこまで時期を特定できるほど、yumiyaneさんにとっては大きい転換点だったんですね。
わたしはどうかなぁと考えてみるに、独りでいた時代に戻っても多分同じような選択しかできなかったと思います。でも、他人の生活と自分の生活が混ざり合う結婚は、ひょっとすると分岐点だったかもしれません。結婚したいと言ってくれた人が何人かいたので、もしそれを受けていたら今頃どんな生活をしていただろうと考えることがあります。(少なくとも外国暮らしにはならなかったでしょうしね)といって、選べと言われたらやっぱり今の夫を選んでしまうかもしれませんが。
人生の選択肢って無限にあるようで、実は必然に近いのかもしれないと、ちょっと思います。
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poirier_AAA at 2012-09-03 16:50
>うさぎ二匹さん、こんにちは。
そうなんです。若い頃はおろかだなぁと見えた人の姿が、ある程度の年齢に達すると他人事ではなく理解できるようになって、笑えなくなるんですよね。
若さを惜しむのは、過ぎ行く夏を惜しむ気持ちとよく似ているなぁと思います。
そうなんです。若い頃はおろかだなぁと見えた人の姿が、ある程度の年齢に達すると他人事ではなく理解できるようになって、笑えなくなるんですよね。
若さを惜しむのは、過ぎ行く夏を惜しむ気持ちとよく似ているなぁと思います。
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poirier_AAA at 2012-09-03 16:57