2012年 06月 03日
原子力防災 |
こういう頁を見つけた。
福島第一原発事故を予見していた電力会社技術者
2007年に出版された「原子力防災」という本があるそうだ。
筆者は四国電力の元技術者。
伊方原発に勤務していたばかりでなく、原子力安全基盤機構(当時は原子力発電技術機構)にも在籍し、緊急時対策技術開発室長の立場で「ERSS」(緊急時対策支援システム)の改良と実用化を担当したという方だそうだ。
その著者が、インタビューの中でこんなふうに言っている。
率直に言って、たとえSPEEDIが作動していなくても、私なら事故の規模を5秒で予測して、避難の警告を出せると思います。『過酷事故』の定義には『全電源喪失事故』が含まれているのですから、プラントが停電になって情報が途絶する事態は当然想定されています。
台風や雪崩と違って、原子力災害は100倍くらい正確に予測通りに動くんです。
スリーマイル島事故では避難は10キロの範囲内でした。チェルノブイリでは30キロだった。ということは、福島第一原発事故ではその中間、22キロとか25キロ程度でしょう。とにかく逃がせばいいのです。私なら5秒で考えます。全交流電源を喪失したのですから、格納容器が壊れることを考えて、25時間以内に30キロの範囲の住人を逃がす。
もとより、正確な情報が上がってきていれば『専門家』は必要ないでしょう。『全交流電源喪失』という情報しかないから、その意味するところを説明できる専門家が必要だったのです。専門家なら、分からないなりに25時間を割り振って、SPEEDIの予測、避難や、安定ヨウ素剤の配布服用などの指示を出すべきだったのです。
ーそれが行われなかったのは?
何とか廃炉を避けたいと思ったのでしょう。原子炉を助けようとして、住民のことを忘れていた。
1号機を廃炉する決心を早くすれば、まだコストは安かった。2、3号機は助かったかもしれない。1号機の水素爆発(12日)でがれきが飛び散り、放射能レベルが高かったため2、3号機に近づけなくなって14日と15日にメルトダウンを起こした。1号機に見切りをさっさとつけるべきだったのです。
著者は言う。
太平洋戦争末期に軍部が『戦果を挙げてから降伏しよう』とずるずる戦争を長引かせて国民を犠牲にしたのと似ています。
負けるかもしれない、と誰も言わないのなら(電力会社も)戦争中(の軍部)と同じです。負けたとき(=最悪の原発事故が起きたとき)の選択肢を用意しておくのが、私たち学者や技術者の仕事ではないですか。
政治・経済的な視点とは別に、技術者としての冷徹な視点があるはずだとずっと思っていた。技術者の仕事には、こうあって欲しい、こうでなければという希望的観測の入る余地はない。できるかできないか、動くか動かないか、上手くいったのか失敗したのか、それは技術者本人が一番良く知っているはず。そして、少なくとも原発をこれだけ抱えた電力会社と国ならば、その技術者の視点をもとにかなり詳細な防災計画を用意していてしかるべき、と思っていた。
そうじゃなかった、ということだ。
政府も電力会社のトップたちも、みな目を反らしていたのだ。
そんなうやむやの中で、季節限定だか何だか知らないがまた原発を動かそうとする動きがあり、世界中が注目している四号機を「大丈夫」と根拠無く庇ってみせる電力会社と政府があり、核廃棄物の処理方法も決まらないままに経済的発展のためと謳って無理を通そうとする人達がいる。
ハヤブサの帰還に日本中が沸いて、そんな技術者を誇りに思ったはずなのに。
地道で熱心な技術者たちの存在によって世界中に名を轟かせた「メイド・イン・ジャパン」なのに。
技術者の言葉は政治家と経済界と御用学者によって簡単に潰されてしまう。
ろくな議論もされないまま、机上の空論ばかりが幅を利かせる世の中。
奢りすぎだよ、と思う。
福島第一原発事故を予見していた電力会社技術者
2007年に出版された「原子力防災」という本があるそうだ。
筆者は四国電力の元技術者。
伊方原発に勤務していたばかりでなく、原子力安全基盤機構(当時は原子力発電技術機構)にも在籍し、緊急時対策技術開発室長の立場で「ERSS」(緊急時対策支援システム)の改良と実用化を担当したという方だそうだ。
その著者が、インタビューの中でこんなふうに言っている。
率直に言って、たとえSPEEDIが作動していなくても、私なら事故の規模を5秒で予測して、避難の警告を出せると思います。『過酷事故』の定義には『全電源喪失事故』が含まれているのですから、プラントが停電になって情報が途絶する事態は当然想定されています。
台風や雪崩と違って、原子力災害は100倍くらい正確に予測通りに動くんです。
スリーマイル島事故では避難は10キロの範囲内でした。チェルノブイリでは30キロだった。ということは、福島第一原発事故ではその中間、22キロとか25キロ程度でしょう。とにかく逃がせばいいのです。私なら5秒で考えます。全交流電源を喪失したのですから、格納容器が壊れることを考えて、25時間以内に30キロの範囲の住人を逃がす。
もとより、正確な情報が上がってきていれば『専門家』は必要ないでしょう。『全交流電源喪失』という情報しかないから、その意味するところを説明できる専門家が必要だったのです。専門家なら、分からないなりに25時間を割り振って、SPEEDIの予測、避難や、安定ヨウ素剤の配布服用などの指示を出すべきだったのです。
ーそれが行われなかったのは?
何とか廃炉を避けたいと思ったのでしょう。原子炉を助けようとして、住民のことを忘れていた。
1号機を廃炉する決心を早くすれば、まだコストは安かった。2、3号機は助かったかもしれない。1号機の水素爆発(12日)でがれきが飛び散り、放射能レベルが高かったため2、3号機に近づけなくなって14日と15日にメルトダウンを起こした。1号機に見切りをさっさとつけるべきだったのです。
著者は言う。
太平洋戦争末期に軍部が『戦果を挙げてから降伏しよう』とずるずる戦争を長引かせて国民を犠牲にしたのと似ています。
負けるかもしれない、と誰も言わないのなら(電力会社も)戦争中(の軍部)と同じです。負けたとき(=最悪の原発事故が起きたとき)の選択肢を用意しておくのが、私たち学者や技術者の仕事ではないですか。
政治・経済的な視点とは別に、技術者としての冷徹な視点があるはずだとずっと思っていた。技術者の仕事には、こうあって欲しい、こうでなければという希望的観測の入る余地はない。できるかできないか、動くか動かないか、上手くいったのか失敗したのか、それは技術者本人が一番良く知っているはず。そして、少なくとも原発をこれだけ抱えた電力会社と国ならば、その技術者の視点をもとにかなり詳細な防災計画を用意していてしかるべき、と思っていた。
そうじゃなかった、ということだ。
政府も電力会社のトップたちも、みな目を反らしていたのだ。
そんなうやむやの中で、季節限定だか何だか知らないがまた原発を動かそうとする動きがあり、世界中が注目している四号機を「大丈夫」と根拠無く庇ってみせる電力会社と政府があり、核廃棄物の処理方法も決まらないままに経済的発展のためと謳って無理を通そうとする人達がいる。
ハヤブサの帰還に日本中が沸いて、そんな技術者を誇りに思ったはずなのに。
地道で熱心な技術者たちの存在によって世界中に名を轟かせた「メイド・イン・ジャパン」なのに。
技術者の言葉は政治家と経済界と御用学者によって簡単に潰されてしまう。
ろくな議論もされないまま、机上の空論ばかりが幅を利かせる世の中。
奢りすぎだよ、と思う。
by poirier_AAA
| 2012-06-03 19:07
| 世情を考える
|
Comments(9)
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saheizi-inokori at 2012-06-03 21:21
まさに過去形ではなく現在進行形です。技術者の使命感が亡くなってしまいました。真実を言えば地位や研究資金を失う?しかし、その地位や研究は何のために?政治家や官僚、経営者に断固として言わないばかりかお先棒を担いでいる。
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poirier_AAA at 2012-06-04 16:16
>saheiziさん、こんにちは。
現場の技術者が危機感を持っても、それがトップに伝わる前に中間管理職によって潰されてしまうこともあるでしょうね。トップですら自分の一存では何もできないみたいですし。サラリーマン経営者、サラリーマン学者が多くなりました。
現場の技術者が危機感を持っても、それがトップに伝わる前に中間管理職によって潰されてしまうこともあるでしょうね。トップですら自分の一存では何もできないみたいですし。サラリーマン経営者、サラリーマン学者が多くなりました。
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saheizi-inokori at 2012-06-04 21:51
そういってしまうとみんな被害者、でなければ無罪になってしまいませんか。
どんなに辛くとも技術者の使命というのはあるんだと思います。
それが亡くなったらおしまいです。
司法が崩壊しているのと同じですね。
どんなに辛くとも技術者の使命というのはあるんだと思います。
それが亡くなったらおしまいです。
司法が崩壊しているのと同じですね。
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poirier_AAA at 2012-06-04 23:00
>saheiziさん、
もちろん使命はあると思います。そう信じたいです。
でも、ここで技術者の使命を言うなら、同じように経営者の、中間管理職の、報道の、政府の、学者の、官僚の、教育者の使命はどうなのだ?とも言いたくなるのです。実際のところ、みながそれぞれ少しずつ少しずつ哲学を無くし使命感をなくし懐具合ばかり心配するようになり、そういうあらゆる部分の使命感の喪失が爆発的に表面化したのか原発事故とその後なのでは、という気がするのです。
ともかく、事故と事故後の不手際についての責任はきちんと追及しておかないといけませんよね。
もちろん使命はあると思います。そう信じたいです。
でも、ここで技術者の使命を言うなら、同じように経営者の、中間管理職の、報道の、政府の、学者の、官僚の、教育者の使命はどうなのだ?とも言いたくなるのです。実際のところ、みながそれぞれ少しずつ少しずつ哲学を無くし使命感をなくし懐具合ばかり心配するようになり、そういうあらゆる部分の使命感の喪失が爆発的に表面化したのか原発事故とその後なのでは、という気がするのです。
ともかく、事故と事故後の不手際についての責任はきちんと追及しておかないといけませんよね。
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アンナ・モネ
at 2012-06-05 02:27
x
はじめまして こんばんわ
お隣の国からやって来ました~
お二人の会話をお聞きして”失敗の本質”を思い出しました
ソ連の司令官がスターリンに日本軍の兵士は勇敢で頑強。
高級将校は無能と報告したと。ずるずると敗戦を延ばし大悲劇を招いた上層部の罪。 何だか重なるように感じて。。。
poirier_AAA さんがおっしゃるように事故の責任を追求する事をしないといけませんよね! できればその過程で、これを見る国民が(私も)もういちど、哲学や使命ということに思いを至らせる機会を持てたらいいなと思います
少しずつの喪失をどうしたら取り戻せるかと
命より原子炉をと考えた(かもしれない)行動に深くぞっとしまして 勇気を奮いエイッとお送りします
お隣の国からやって来ました~
お二人の会話をお聞きして”失敗の本質”を思い出しました
ソ連の司令官がスターリンに日本軍の兵士は勇敢で頑強。
高級将校は無能と報告したと。ずるずると敗戦を延ばし大悲劇を招いた上層部の罪。 何だか重なるように感じて。。。
poirier_AAA さんがおっしゃるように事故の責任を追求する事をしないといけませんよね! できればその過程で、これを見る国民が(私も)もういちど、哲学や使命ということに思いを至らせる機会を持てたらいいなと思います
少しずつの喪失をどうしたら取り戻せるかと
命より原子炉をと考えた(かもしれない)行動に深くぞっとしまして 勇気を奮いエイッとお送りします
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saheizi-inokori at 2012-06-05 09:00
ちょっとしつこくてごめん!
技術者の使命と政治家などの使命の差は原発の危険性を客観的に言うかどうかではないかと思います。
かつて私もあることで理科系出身者が「専門家のわれわれは政治的判断はしないが、これが可能か否かはだれにも遠慮せず言います」と言われて頑張っていたら、いよいよの場面で専門家が降りてしまってがっくりきたことがあります。
専門家が大丈夫というと政治家は勢いづきますね。
技術者の使命と政治家などの使命の差は原発の危険性を客観的に言うかどうかではないかと思います。
かつて私もあることで理科系出身者が「専門家のわれわれは政治的判断はしないが、これが可能か否かはだれにも遠慮せず言います」と言われて頑張っていたら、いよいよの場面で専門家が降りてしまってがっくりきたことがあります。
専門家が大丈夫というと政治家は勢いづきますね。
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poirier_AAA at 2012-06-05 16:28
>アンナ・モネさん、はじめまして。
勇気を出してコメントを送って下さってありがとうございます。お隣の国というとどちらでしょう?海外に住んでも、やはり日本のことは気になってたまりませんよね。
誰の言葉だったか覚えていないのですが、「歴史から学べるのは、人類が歴史から何も学んでいないということだ」と言った人がいたそうです。戦中の軍部や今の政府のやり方を見ていると本当にそのとおりで、いやになってしまいます。でも、いやになると言っている場合でもない。わたしたちが生きている時代は、物凄い負の遺産を生み出してしまいました。せめてこれ以上増やすことだけはすまいと、危機感使命感を持ちたいものですね。
勇気を出してコメントを送って下さってありがとうございます。お隣の国というとどちらでしょう?海外に住んでも、やはり日本のことは気になってたまりませんよね。
誰の言葉だったか覚えていないのですが、「歴史から学べるのは、人類が歴史から何も学んでいないということだ」と言った人がいたそうです。戦中の軍部や今の政府のやり方を見ていると本当にそのとおりで、いやになってしまいます。でも、いやになると言っている場合でもない。わたしたちが生きている時代は、物凄い負の遺産を生み出してしまいました。せめてこれ以上増やすことだけはすまいと、危機感使命感を持ちたいものですね。
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poirier_AAA at 2012-06-05 17:31
>saheiziさん、こんにちは。
なんの、佐平次さんのコメントはいつだって大歓迎です。でも、書いて意見を交わすのってまどろっこしいものですね。会って話せたら簡単なのに。
技術者の使命と政治家などの使命はもちろん違って、おっしゃるとおり、技術者の使命は政治的判断抜きの客観的な状況を伝えることだと思います。ですから、今回のことで技術者たちがその役目を果たしたのかどうか、彼ら自身がきちんと反省すべきと思います。
けれど今回の事故の人災たる由縁は、人を動かせる立場にいる人、被害を最小限にとどめるための指示をだせる立場にいた人が、技術的な視点からの判断を無視して金勘定に突っ走ったことではないでしょうか?技術者の声がもっと大きかったら、政界財界は耳を傾けたでしょうか?
(長くなったので2回に分けます↓)
なんの、佐平次さんのコメントはいつだって大歓迎です。でも、書いて意見を交わすのってまどろっこしいものですね。会って話せたら簡単なのに。
技術者の使命と政治家などの使命はもちろん違って、おっしゃるとおり、技術者の使命は政治的判断抜きの客観的な状況を伝えることだと思います。ですから、今回のことで技術者たちがその役目を果たしたのかどうか、彼ら自身がきちんと反省すべきと思います。
けれど今回の事故の人災たる由縁は、人を動かせる立場にいる人、被害を最小限にとどめるための指示をだせる立場にいた人が、技術的な視点からの判断を無視して金勘定に突っ走ったことではないでしょうか?技術者の声がもっと大きかったら、政界財界は耳を傾けたでしょうか?
(長くなったので2回に分けます↓)
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poirier_AAA at 2012-06-05 17:36
(上の続きです)
実際は何年も何十年も前から警鐘を鳴らしていた人はいたわけです。でも、そういうものを一切無視してここまで来ました。トップの意識の低さも問題なら、技術者とトップを繋ぐ情報伝達ラインが目詰まりしていたこと、首脳部がファイナンシャル・アドヴァイザーは持っても真の意味のテクニカル・アドヴァイザーを持つことを考えなかったことが、もっと致命的なのではないかと思うのです。
つまり、技術者の使命感は必要だろうには全面的に賛成。でも事故の責任というなら、技術者ではなく、技術も知らずにものをいい続けた専門家(学者)の方がずっと罪深いと思います。
それにしても、原発ができてからもう40年も経っているんですよね。技術者たちはもうほとんど引退しています。設計や建設に関わった人がいなくなるのは怖いです!
実際は何年も何十年も前から警鐘を鳴らしていた人はいたわけです。でも、そういうものを一切無視してここまで来ました。トップの意識の低さも問題なら、技術者とトップを繋ぐ情報伝達ラインが目詰まりしていたこと、首脳部がファイナンシャル・アドヴァイザーは持っても真の意味のテクニカル・アドヴァイザーを持つことを考えなかったことが、もっと致命的なのではないかと思うのです。
つまり、技術者の使命感は必要だろうには全面的に賛成。でも事故の責任というなら、技術者ではなく、技術も知らずにものをいい続けた専門家(学者)の方がずっと罪深いと思います。
それにしても、原発ができてからもう40年も経っているんですよね。技術者たちはもうほとんど引退しています。設計や建設に関わった人がいなくなるのは怖いです!