2012年 04月 10日
Lola |
わたしはおばあちゃん子なので、老女が出てくる映画には弱いのです。けれど、そういう弱点を持つ持たないに拘らず、これは凄い映画なのじゃないかと感じたのがこの作品でした。
舞台はフィリピンの貧しい地区。壁の至る所に醜い落書きがあって、道路にはポイポイ捨てられたゴミが落ちて風に舞っています。そこに、小学生くらいの少年に手を引かれた老女が登場します。歩く時の姿勢、手足の筋張った感じや肉の落ちた顔つきなどから、相当な年齢であることが伺える老女です。
老女の歩いて回る先を見ているうちに、ようやく事情がつかめてきます。どうやら老女は誰かのお葬式の準備をしているらしい。それは小競り合いの末に殺されてしまった孫らしい、とわかってきます。けれど、そんな葬儀でも、彼女とその家族には十分なお金がありません。可哀想な孫のためになんとか葬儀の形を整えてやりたい、老女はおぼつかない足で資金集めに奔走します。
そのうちもう1人の老女が登場します。こちらは先ほどの女性よりもほんの少し若いかもしれなない。けれども同じように足下がおぼつかず、背も曲がりかけていて、どこにいっても「Lola(おばあちゃん)」と呼ばれて労ってもらえる年齢です。
この老女は警察に身柄を拘束されている孫を訪ねます。この孫の若者こそ、さきほどの老女の孫を殺した犯人でした。なんとか孫を助けたい、その一心で老女は奔走します。けれども、孫が殺人を犯したことは明らかな事実だから裁判で争っても勝ち目は絶対にない、助けたいなら被害者の家族と示談に持ち込む方が良いと言われます。そこから、彼女もまた、お金をかき集めるために動き始めるのです。
貧しい地区で、人々は爪に灯をともすようにして生活しています。そしてお金を集めるために奔走するのは、元気な若者ではなくて、階段を上るのもようやくという老いた女たち。お世辞にも気持ちの良い話ではありません。
それなのに目は釘付けです。ストーリーも気になるけれど、むしろ映像にこそすごい力があって、観ている者はフィリピンの街を一緒に歩き回り、豪雨に打たれ、湿った風に吹かれているような気分になります。
それに、老女老女と書いてしまったけれど、この女性たちの生命力が凄いのです。昨今の日本の、若くて小綺麗でハイカラなおばあちゃんたちではありません。言葉は悪いけれどヨボヨボです。長い間家族のために働き続けてやせ細った筋張った体。そんな体のどこにこれだけのエネルギーがあるのだろうと吃驚するほど、彼女たちは諦めません。弱気になる若い者を急かすようにして、自分たちが率先して動き回ります。
髪振り乱して歩く老女たちの姿が、わたしには神々しく見えました。ゆとりの時間だの上質なひとときだのといった言葉遊びは彼女たちの生活には存在しません。ただ一所懸命生きている。でも、それ以外に人間にできることなんてないじゃあないか、という気持ちです。
状況的にはかなり悲惨な部類に入る話なのかもしれませんが、どうして、これはすごい作品だと思いました。下手な説明よりもはるかに雄弁に、フィリピンという国のこと、彼女たちが生きる社会のこと、頑張る人の姿を見せてくれます。したたかでしなやかで力強い。この監督、注目したいです。
「LOLA」
監督:Brillante Mendoza(2009)
舞台はフィリピンの貧しい地区。壁の至る所に醜い落書きがあって、道路にはポイポイ捨てられたゴミが落ちて風に舞っています。そこに、小学生くらいの少年に手を引かれた老女が登場します。歩く時の姿勢、手足の筋張った感じや肉の落ちた顔つきなどから、相当な年齢であることが伺える老女です。
老女の歩いて回る先を見ているうちに、ようやく事情がつかめてきます。どうやら老女は誰かのお葬式の準備をしているらしい。それは小競り合いの末に殺されてしまった孫らしい、とわかってきます。けれど、そんな葬儀でも、彼女とその家族には十分なお金がありません。可哀想な孫のためになんとか葬儀の形を整えてやりたい、老女はおぼつかない足で資金集めに奔走します。
そのうちもう1人の老女が登場します。こちらは先ほどの女性よりもほんの少し若いかもしれなない。けれども同じように足下がおぼつかず、背も曲がりかけていて、どこにいっても「Lola(おばあちゃん)」と呼ばれて労ってもらえる年齢です。
この老女は警察に身柄を拘束されている孫を訪ねます。この孫の若者こそ、さきほどの老女の孫を殺した犯人でした。なんとか孫を助けたい、その一心で老女は奔走します。けれども、孫が殺人を犯したことは明らかな事実だから裁判で争っても勝ち目は絶対にない、助けたいなら被害者の家族と示談に持ち込む方が良いと言われます。そこから、彼女もまた、お金をかき集めるために動き始めるのです。
貧しい地区で、人々は爪に灯をともすようにして生活しています。そしてお金を集めるために奔走するのは、元気な若者ではなくて、階段を上るのもようやくという老いた女たち。お世辞にも気持ちの良い話ではありません。
それなのに目は釘付けです。ストーリーも気になるけれど、むしろ映像にこそすごい力があって、観ている者はフィリピンの街を一緒に歩き回り、豪雨に打たれ、湿った風に吹かれているような気分になります。
それに、老女老女と書いてしまったけれど、この女性たちの生命力が凄いのです。昨今の日本の、若くて小綺麗でハイカラなおばあちゃんたちではありません。言葉は悪いけれどヨボヨボです。長い間家族のために働き続けてやせ細った筋張った体。そんな体のどこにこれだけのエネルギーがあるのだろうと吃驚するほど、彼女たちは諦めません。弱気になる若い者を急かすようにして、自分たちが率先して動き回ります。
髪振り乱して歩く老女たちの姿が、わたしには神々しく見えました。ゆとりの時間だの上質なひとときだのといった言葉遊びは彼女たちの生活には存在しません。ただ一所懸命生きている。でも、それ以外に人間にできることなんてないじゃあないか、という気持ちです。
状況的にはかなり悲惨な部類に入る話なのかもしれませんが、どうして、これはすごい作品だと思いました。下手な説明よりもはるかに雄弁に、フィリピンという国のこと、彼女たちが生きる社会のこと、頑張る人の姿を見せてくれます。したたかでしなやかで力強い。この監督、注目したいです。
「LOLA」
監督:Brillante Mendoza(2009)
by poirier_AAA
| 2012-04-10 17:35
| 観る・鑑賞する
|
Comments(2)
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by
Mtonosama at 2012-04-11 06:39
ひきつけられて一気に梨の木日記読みました。
同じくおばあちゃん子の私としては是非観てみたい映画です。
確かに日本の「お若いですねぇ」といわれる綺麗なおばあちゃんたち。
それが悪いとはいわないし、そこまでくる背景に何もなかったとは
思いません。
でも、フィリピンのおばあさんの逞しさは家族のために生きることを
生きがいとして生きてきた逞しさなのですね。
絶対観てみたい。日本公開はいつなんだろう。
ご紹介ありがとうございました。
同じくおばあちゃん子の私としては是非観てみたい映画です。
確かに日本の「お若いですねぇ」といわれる綺麗なおばあちゃんたち。
それが悪いとはいわないし、そこまでくる背景に何もなかったとは
思いません。
でも、フィリピンのおばあさんの逞しさは家族のために生きることを
生きがいとして生きてきた逞しさなのですね。
絶対観てみたい。日本公開はいつなんだろう。
ご紹介ありがとうございました。
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by
poirier_AAA at 2012-04-11 18:30
>mtonosamaさん、こんにちは。
わたしも、是非との様に観て欲しいなぁと思いながら観ました。日本でも公開されるといいですね。
フランス語字幕なのですが、よろしければ予告編もご覧下さい。映像の雰囲気がわかると思います。映っているものは決して綺麗でも豪華でも楽しいものでもないのに、本当に目が離せないんですよ。何と説明したらいいのかわからないんですけれど、すごいものを見せてもらったと思いました。
http://www.allocine.fr/video/player_gen_cmedia=19108605&cfilm=172486.html
この映画をみながら、わたしは自分の祖母のことを思い出しました。似た雰囲気のある人でした。
わたしも、是非との様に観て欲しいなぁと思いながら観ました。日本でも公開されるといいですね。
フランス語字幕なのですが、よろしければ予告編もご覧下さい。映像の雰囲気がわかると思います。映っているものは決して綺麗でも豪華でも楽しいものでもないのに、本当に目が離せないんですよ。何と説明したらいいのかわからないんですけれど、すごいものを見せてもらったと思いました。
http://www.allocine.fr/video/player_gen_cmedia=19108605&cfilm=172486.html
この映画をみながら、わたしは自分の祖母のことを思い出しました。似た雰囲気のある人でした。