2012年 03月 17日
ビバ!独身お出かけ |
さて、鳴り物入りで宣言した昨夜の単身外出であります。
よもや贅沢な料理の写真が並ぶのでは?とか、正装した美男美女が見られるのでは?などと想像した方はいらっしゃらないでしょう。長く読んで下さっている方ならあやまたず、真っ先にそのような可能性は排除してお考えになったことと思います。
そう、それが正しい。
わたしが熱に浮かれて出かけた先は、色気とも食欲とも無縁の場所でありました。正体を明かせば、色気の「い」の字もない、自分がどんな姿になっているかも忘れて夢中で眼を血走らせ、重い荷物を抱えて歩き回り、腕も脚もくたくたになるような場所です。
つまり、パリで年に1回開かれる大規模な書籍見本市に行って参りました。
震災から1年ということもあり、今年は日本が「特別招待国」でした。たくさんの作家が招待されているばかりでなく、ひときわ大きな書籍展示用のブースが用意されていたり、作家の講演や対談が企画されていたりと盛りだくさんです。
入場後は、なにはさておき日本のブースに直行しました。
JAPONの赤字の下には案内カウンターと日本文化紹介の催しスペースがあります。 そしてこちらが本のコーナー。広さも驚きましたが、本を眺めるお客の数の多さにもびっくりしました。 並ぶ本のほとんどは(当然ですが)フランス語です。が、一部には日本語書籍もありました。初めは嬉しくてはしゃいでしまったけれど、結局ユーロと日本の定価を比べて「やっぱり日本で買おう」と買い控える、財布のヒモが固いわたくし。
また、思いがけず、こんな場面にも出くわしました。 大江健三郎と多和田葉子。直後に対談を控えて待っていらっしゃるところです。
実は、この2人の話が聞きたくて夫に無理を言いました。更には、夜7時から予定されていた多和田葉子さんの話が聞いてみたかったのです。残念ながら大江/多和田対談は会場に入れず(気がついたときにはもう満席だった)聞くことができませんでしたが、夜の多和田さんの話はとても興味深く聞くことができました。
不思議な縁もありました。大江/多和田対談の会場に入れずに悔しい思いをしているときに、偶然そばにいたフランス在住の日本人女性と話し始め、それからあれやこれやと本の話やら作家の話やらをしてしまいました。また夜の多和田さんの話が終わった後でも、この時に通訳された方、居合わせた同じく日本人でこちらに在住する通訳者と3人で長い立ち話をしてしまいました。お互いに名前も知らせないまま別れてしまいましたけれど、多和田さんの話で思ったこと、2つの文化の狭間で生きること、翻訳や通訳をすること、震災後の日本人のこと、あれもこれもと次々に話題が繋がり、久しぶりに脳味噌を刺激される思いがしました。
日本人だけに限ったことではありません。このサロンに来る人たちは多かれ少なかれ本を愛し読書を楽しみにする人達です。ちょっと立ち寄ったスタンドの人に、こういう本を読むといいよとアドヴァイスをもらったり、ウンベルト・エーコの新作の話になったり、見るところ出会うところのすべてから面白い話をわけてもらえるような、そんな場所でした。
帰り道、春真っ盛りのようなあたたかい夜で、あちこちのレストランの開け放した窓やドアから食器の音や人のざわめきが聞こえて来ます。
東京で独りで生活していた頃の、誰かに守られたり誰かを守ったりという緩衝地帯を持たず、自分ひとりで世界と向き合い全部を自力で拓いていた頃のことをふっと思い出しました。あれもわたし、パリで家族のもとに帰ろうとしているのもわたし。家族はいいものだけれど、あの、世界に自分ただ1人という感覚を忘れないでおこう、そんなことを考えながら家に急ぎました。
家の窓から光が漏れるのを見て幸せな気持ちになり、ドアを開ければ男性陣3人の熱烈歓迎を受け、昨日は嬉しいことがたくさん重なったいい1日でありました。
よもや贅沢な料理の写真が並ぶのでは?とか、正装した美男美女が見られるのでは?などと想像した方はいらっしゃらないでしょう。長く読んで下さっている方ならあやまたず、真っ先にそのような可能性は排除してお考えになったことと思います。
そう、それが正しい。
わたしが熱に浮かれて出かけた先は、色気とも食欲とも無縁の場所でありました。正体を明かせば、色気の「い」の字もない、自分がどんな姿になっているかも忘れて夢中で眼を血走らせ、重い荷物を抱えて歩き回り、腕も脚もくたくたになるような場所です。
つまり、パリで年に1回開かれる大規模な書籍見本市に行って参りました。
震災から1年ということもあり、今年は日本が「特別招待国」でした。たくさんの作家が招待されているばかりでなく、ひときわ大きな書籍展示用のブースが用意されていたり、作家の講演や対談が企画されていたりと盛りだくさんです。
入場後は、なにはさておき日本のブースに直行しました。
JAPONの赤字の下には案内カウンターと日本文化紹介の催しスペースがあります。
また、思いがけず、こんな場面にも出くわしました。
実は、この2人の話が聞きたくて夫に無理を言いました。更には、夜7時から予定されていた多和田葉子さんの話が聞いてみたかったのです。残念ながら大江/多和田対談は会場に入れず(気がついたときにはもう満席だった)聞くことができませんでしたが、夜の多和田さんの話はとても興味深く聞くことができました。
不思議な縁もありました。大江/多和田対談の会場に入れずに悔しい思いをしているときに、偶然そばにいたフランス在住の日本人女性と話し始め、それからあれやこれやと本の話やら作家の話やらをしてしまいました。また夜の多和田さんの話が終わった後でも、この時に通訳された方、居合わせた同じく日本人でこちらに在住する通訳者と3人で長い立ち話をしてしまいました。お互いに名前も知らせないまま別れてしまいましたけれど、多和田さんの話で思ったこと、2つの文化の狭間で生きること、翻訳や通訳をすること、震災後の日本人のこと、あれもこれもと次々に話題が繋がり、久しぶりに脳味噌を刺激される思いがしました。
日本人だけに限ったことではありません。このサロンに来る人たちは多かれ少なかれ本を愛し読書を楽しみにする人達です。ちょっと立ち寄ったスタンドの人に、こういう本を読むといいよとアドヴァイスをもらったり、ウンベルト・エーコの新作の話になったり、見るところ出会うところのすべてから面白い話をわけてもらえるような、そんな場所でした。
帰り道、春真っ盛りのようなあたたかい夜で、あちこちのレストランの開け放した窓やドアから食器の音や人のざわめきが聞こえて来ます。
東京で独りで生活していた頃の、誰かに守られたり誰かを守ったりという緩衝地帯を持たず、自分ひとりで世界と向き合い全部を自力で拓いていた頃のことをふっと思い出しました。あれもわたし、パリで家族のもとに帰ろうとしているのもわたし。家族はいいものだけれど、あの、世界に自分ただ1人という感覚を忘れないでおこう、そんなことを考えながら家に急ぎました。
家の窓から光が漏れるのを見て幸せな気持ちになり、ドアを開ければ男性陣3人の熱烈歓迎を受け、昨日は嬉しいことがたくさん重なったいい1日でありました。
by poirier_AAA
| 2012-03-17 22:25
| 日々の断片
|
Comments(12)
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stanislowski at 2012-03-18 10:59
帰り道のレストランから聞こえてくる音、引き戻されてゆく瞬間がこれまた充実した時間だったことを思わせます。別の人たちもいい時間を過ごしていたのですね。そして扉を開けるなりいっぱいkissを受けた、頬を高潮させている梨の木さん!を思い浮かべました。
私も甘い夢を見ていました。が、飼い猫と近所の猫が喧嘩する声で起こされました。これもまた春の宵。
マダムと比較してお恥ずかしいやら何やら。
私も甘い夢を見ていました。が、飼い猫と近所の猫が喧嘩する声で起こされました。これもまた春の宵。
マダムと比較してお恥ずかしいやら何やら。
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Mtonosama at 2012-03-18 14:24
うわっ!
大江健三郎さんだっ!!すごい、すごい。
吉本隆明氏も亡くなり、大江健三郎さんは大いなる知として
まだまだ活躍していただきたいものです。
私は昨日田端にある田端文士村記念館で開催された芥川龍之介生誕120周年記念講演とゆかりの地を散策する会に出かけてきました。
ところが雨天のため、一番楽しみにしていたゆかりの地お散歩会は中止・・・・・
あまりに残念なので、雨の中、龍之介の旧居跡だけはしっかり訪ねてきました。
(田端は空襲にあっているので、旧居はなく看板だけでしたが)
大江健三郎さんだっ!!すごい、すごい。
吉本隆明氏も亡くなり、大江健三郎さんは大いなる知として
まだまだ活躍していただきたいものです。
私は昨日田端にある田端文士村記念館で開催された芥川龍之介生誕120周年記念講演とゆかりの地を散策する会に出かけてきました。
ところが雨天のため、一番楽しみにしていたゆかりの地お散歩会は中止・・・・・
あまりに残念なので、雨の中、龍之介の旧居跡だけはしっかり訪ねてきました。
(田端は空襲にあっているので、旧居はなく看板だけでしたが)
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saheizi-inokori at 2012-03-18 14:48
留守部隊もママンのありがたさを実感しましたね。
「アラビアの夜の種族」は面白かったですよ。
「アラビアの夜の種族」は面白かったですよ。
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stanislowski
at 2012-03-18 17:42
x
紅潮です。こっちのほうがお恥ずかしい。
真夜中に娘に付き合いながらPCのキーを叩くものではありませんね。
真夜中に娘に付き合いながらPCのキーを叩くものではありませんね。
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poirier_AAA at 2012-03-18 19:49
>stanislowskiさん、こんにちは。
どうも、なんとなく、stanislowskiさんには誤解されている気がする(笑)自分で言うのも自虐的すぎて切ないけれど、おおいにありふれた、ただの地味なアジア人ですから。パリのマダムと呼ばれるには抵抗あり過ぎですから。
昔は絵に描いたような都会のキリギリスだったので、久しぶりに夜外を独りで歩いて昔の感覚を思い出しました。あれはあれで楽しかった。でも、家族が待つ家に帰る楽しさはまた別物ですよね。大いなる日常が幸せです。
どうも、なんとなく、stanislowskiさんには誤解されている気がする(笑)自分で言うのも自虐的すぎて切ないけれど、おおいにありふれた、ただの地味なアジア人ですから。パリのマダムと呼ばれるには抵抗あり過ぎですから。
昔は絵に描いたような都会のキリギリスだったので、久しぶりに夜外を独りで歩いて昔の感覚を思い出しました。あれはあれで楽しかった。でも、家族が待つ家に帰る楽しさはまた別物ですよね。大いなる日常が幸せです。
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poirier_AAA at 2012-03-18 20:05
>mtonosamaさん、こんにちは。
本物の大江健三郎氏が動いているところを見たら、一気に舞い上がってしまいました。もう恥も外聞もなくミーハー全開ですよ。写真を撮っただけでなく、サインも頼もうと慌てて著作を(しかも値の張る日本語の方を)買いに走ったんですが、本を手に戻った頃にはもう姿はなく‥‥とても悲しかったです。
大江氏のような著名な作家の言葉をもっても、なかなか日本の現状は伝えきれないものがあると感じました。体験した者(あるいは疑似体験した者)と、遠いところで起った出来事と思っている者の間に横たわる溝の深さに、あらためて問題の大きさを見た思いです。
芥川龍之介、もう生誕120年なんですね。青空文庫を見ていたら名前も知らない短編がたくさん出ていました。ぼちぼち読んでみようと思っています。ゆかりの地を訪ねる散歩もいいですね。
本物の大江健三郎氏が動いているところを見たら、一気に舞い上がってしまいました。もう恥も外聞もなくミーハー全開ですよ。写真を撮っただけでなく、サインも頼もうと慌てて著作を(しかも値の張る日本語の方を)買いに走ったんですが、本を手に戻った頃にはもう姿はなく‥‥とても悲しかったです。
大江氏のような著名な作家の言葉をもっても、なかなか日本の現状は伝えきれないものがあると感じました。体験した者(あるいは疑似体験した者)と、遠いところで起った出来事と思っている者の間に横たわる溝の深さに、あらためて問題の大きさを見た思いです。
芥川龍之介、もう生誕120年なんですね。青空文庫を見ていたら名前も知らない短編がたくさん出ていました。ぼちぼち読んでみようと思っています。ゆかりの地を訪ねる散歩もいいですね。
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poirier_AAA at 2012-03-18 20:09
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poirier_AAA at 2012-03-18 20:12
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kanafr at 2012-03-19 11:46
あらためて自分の事を思う為にも、家族との時間も一人での時間もどちらも大事ですね。
お出かけは、ここだったんですね。
私は土曜日も残業だったので日曜日はもう出かける気が起きませんでした。
№2はこのサロンに凄く行きたがっていましたが、来週大きな試験があるので土、日はこれにかかりっきりでした。大江健三郎の本を仏語で読んでいるのでどうしても会いたかったんだけどなあと残念がっていました。
月曜日は授業が夕方まであるので行かれそうもないんですって。
行かれた方達のブログをみては、ため息ついています。
お出かけは、ここだったんですね。
私は土曜日も残業だったので日曜日はもう出かける気が起きませんでした。
№2はこのサロンに凄く行きたがっていましたが、来週大きな試験があるので土、日はこれにかかりっきりでした。大江健三郎の本を仏語で読んでいるのでどうしても会いたかったんだけどなあと残念がっていました。
月曜日は授業が夕方まであるので行かれそうもないんですって。
行かれた方達のブログをみては、ため息ついています。
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poirier_AAA at 2012-03-19 16:57
>kanafrさん、こんにちは。
そうなんです。わたしは初めて行ったのですが、堪能しました。週末にかからなければ毎日でも通いたいくらいの場所ですよ。
大江健三郎の人気は凄かったです。それに、他の日本人作家にはないオーラがあるように感じられました。不思議な存在感でした。
No.2君は残念でしたね。がっかりする気持ちはよくわかります。でも、目の前のやるべきことをきちんとわかっているんですから頼もしいです。会えなかったのは残念ですけれど、本の中には紛れもない作家本人がいますから。著作を読み込むことは、役者不足のフランス人を相手にした対談を聞くより、よっぽど本人を知ることができると思うんですよ。
No.2君、わたしも仲間です。一緒に次の機会を待ちましょう。
そうなんです。わたしは初めて行ったのですが、堪能しました。週末にかからなければ毎日でも通いたいくらいの場所ですよ。
大江健三郎の人気は凄かったです。それに、他の日本人作家にはないオーラがあるように感じられました。不思議な存在感でした。
No.2君は残念でしたね。がっかりする気持ちはよくわかります。でも、目の前のやるべきことをきちんとわかっているんですから頼もしいです。会えなかったのは残念ですけれど、本の中には紛れもない作家本人がいますから。著作を読み込むことは、役者不足のフランス人を相手にした対談を聞くより、よっぽど本人を知ることができると思うんですよ。
No.2君、わたしも仲間です。一緒に次の機会を待ちましょう。
ごぶさたしています。ひさしぶりのコメントです。
サインもらえなくて残念でしたね。
大江健三郎氏のインタビューをもとにした記事がルモンドとレクスプレスに載っておりましたので、それをもとにした記事を作ってみました。
大統領選さなかのフランス人にもこの反核・脱原発メッセージが届けばいいのですけど...。
サインもらえなくて残念でしたね。
大江健三郎氏のインタビューをもとにした記事がルモンドとレクスプレスに載っておりましたので、それをもとにした記事を作ってみました。
大統領選さなかのフランス人にもこの反核・脱原発メッセージが届けばいいのですけど...。
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poirier_AAA at 2012-03-26 16:59
>村野瀬さん、こんにちは。
こちらこそご無沙汰しております。村野瀬さんのところにはほとんど毎日お邪魔しているのですが、常に読み逃げです。すみません。
あれだけの人の言葉をもっても、事実はなかなか伝え難いものだなと今回は思いました。フランスの知識人たちには、この事故を理論を振り回してカテゴライズしようとしているようなところがあり、その現実を見ようとしない態度に大江氏が苛立つ場面もあったと聞きます。
大変な事故だったと認識することと、その事故が自分にも起こりうることかもしれないと想像して事故を考えることとは決定的に違うのですよね。その隔たりの大きさ、それを超えて伝え続けることの大変さを実感しています。
こちらこそご無沙汰しております。村野瀬さんのところにはほとんど毎日お邪魔しているのですが、常に読み逃げです。すみません。
あれだけの人の言葉をもっても、事実はなかなか伝え難いものだなと今回は思いました。フランスの知識人たちには、この事故を理論を振り回してカテゴライズしようとしているようなところがあり、その現実を見ようとしない態度に大江氏が苛立つ場面もあったと聞きます。
大変な事故だったと認識することと、その事故が自分にも起こりうることかもしれないと想像して事故を考えることとは決定的に違うのですよね。その隔たりの大きさ、それを超えて伝え続けることの大変さを実感しています。