2010年 06月 10日
朗読者、もどき |
どうも影響され易い性格のようで、先日の映画を観てから急に音読への興味がわいて参りました。
我が家の本棚には、その昔、東京のフランス語書籍専門店で叩き売りされていた「高校生のための文学読本」とでも呼ぶべきフランス人学生向け参考書が埃をかぶっています。およそ文学を学ぶフランス人学生なら知っておかねばならないであろうフランス人作家たちが、11世紀から順に紹介されており、代表作の抜粋も載っています。
文章も短いし、音読テクストとしてはぴったりじゃないの、というわけで、さっそく夫相手に音読を始めました。
いや、音読というのはいいものであります。
フランス語をしっかり発音する訓練になります。
耳から覚えて適当に発音していた単語を文字として確認できます。
自分が、いかにフランス語の文章のリズムに不慣れだったか身にしみます。
ゆっくり読むので、言葉や情景が頭に入ってきます。
自慢じゃありませんが、わたしはフランス文学が苦手でありました。そりゃあ「三銃士」とか「シラノ」なんかは大好きでしたけれど、カミュとかモーパッサンとか、あまり面白いと思った記憶がありません。
ところが、なんとなんと、フランス語で読むと面白かったんですよ。カミュの「ペスト」を読んでいたら、描写があまりにも的をついていて、ちょっと目眩がするくらい感動しました。これは、かなりわたし好みのテクストではありますまいか?日本語の翻訳で読んでいた時は、多分ストーリーを追っていただけなんだと思います。それがフランス語で読むと、ストーリーも気になるけれど、それより何より文章が気になって、文を噛みしめながら読んでいる感じです。文章が染み込んできますよ。嗚呼、不覚でありました。これは是非本を買って来て全部通して読んでみなければ。
これはフランス語からの翻訳の宿命なのかもしれません。フランス語の基本単語数は英語と比べるとかなり少ないとどこかで読んだことがありますが、つまり一単語が担う意味が広いから数は少なくて済むということなのです。今度の週末どうやって過ごすか、いい案がある?というときの案、考え、思いつきという意味で使うのも idée (イデ)なら、概念とか思想とか観念とかの抽象的な訳語になるのも idée (イデ)です。フランス語で読んでいると、すっと抵抗感なく入ってくる言葉が、日本語に訳された途端に鎧をまとうようで現実感が薄れてしまいます。なんとかフランス語の意味するところに近づけようと翻訳者が苦労しても、逆に説明し過ぎて原文の香りを奪ってしまうこともある。とても難しい作業だと思うのです。
しかし、とはいっても音読した途端「こりゃあ駄目だ」とさじを投げた文章もあります。恥ずかしながらマルセル・プルーストですよ。抜粋は「失われた時をもとめて」の第一篇「スワン家のほうへ」からだったんですが、まあ言葉も聞いたこともないものが続々出てくるわ文章はだらだら続くわで、音読しながらため息をついてしまいました。わたしのフランス語力も絶対的に足りないんだろうけれど、まあ文章との相性も大きいよね、いやしかし、日本語でなら大江健三郎の長々しい書き方も結構好きなんだから、やっぱり語学力の問題だわ、などと思いました。こればっかりは、日本語訳の恩恵にあずかっておくべきだったかもしれません。この20世紀を代表する小説の一つと呼ばれる超大作を、フランス語で「楽しく」読める日が来るのでしょうか?
というわけで、フランス語力強化のためにも、新しい愉しみを味わうためにも、少し音読を続けてみようかなぁなどと思っている次第です。「ペスト」は学生のとき読んだかもしれないけど忘れちゃった(そんなことでいいのかっ)という夫にも、きっと良い機会になるに違いありません。
そういえば、音読にはもう一つ、思いもかけない効果がありました。「今日は仕事があるから、もしソファで寝そうになっていたら起こしてね」という夫、眠そうに目が垂れて来ても、わたしが音読を始めるとしゃっきり目が覚めます。あんまり聞き苦しくて、眠気がふっとぶんだそうです。
我が家の本棚には、その昔、東京のフランス語書籍専門店で叩き売りされていた「高校生のための文学読本」とでも呼ぶべきフランス人学生向け参考書が埃をかぶっています。およそ文学を学ぶフランス人学生なら知っておかねばならないであろうフランス人作家たちが、11世紀から順に紹介されており、代表作の抜粋も載っています。
文章も短いし、音読テクストとしてはぴったりじゃないの、というわけで、さっそく夫相手に音読を始めました。
いや、音読というのはいいものであります。
フランス語をしっかり発音する訓練になります。
耳から覚えて適当に発音していた単語を文字として確認できます。
自分が、いかにフランス語の文章のリズムに不慣れだったか身にしみます。
ゆっくり読むので、言葉や情景が頭に入ってきます。
自慢じゃありませんが、わたしはフランス文学が苦手でありました。そりゃあ「三銃士」とか「シラノ」なんかは大好きでしたけれど、カミュとかモーパッサンとか、あまり面白いと思った記憶がありません。
ところが、なんとなんと、フランス語で読むと面白かったんですよ。カミュの「ペスト」を読んでいたら、描写があまりにも的をついていて、ちょっと目眩がするくらい感動しました。これは、かなりわたし好みのテクストではありますまいか?日本語の翻訳で読んでいた時は、多分ストーリーを追っていただけなんだと思います。それがフランス語で読むと、ストーリーも気になるけれど、それより何より文章が気になって、文を噛みしめながら読んでいる感じです。文章が染み込んできますよ。嗚呼、不覚でありました。これは是非本を買って来て全部通して読んでみなければ。
これはフランス語からの翻訳の宿命なのかもしれません。フランス語の基本単語数は英語と比べるとかなり少ないとどこかで読んだことがありますが、つまり一単語が担う意味が広いから数は少なくて済むということなのです。今度の週末どうやって過ごすか、いい案がある?というときの案、考え、思いつきという意味で使うのも idée (イデ)なら、概念とか思想とか観念とかの抽象的な訳語になるのも idée (イデ)です。フランス語で読んでいると、すっと抵抗感なく入ってくる言葉が、日本語に訳された途端に鎧をまとうようで現実感が薄れてしまいます。なんとかフランス語の意味するところに近づけようと翻訳者が苦労しても、逆に説明し過ぎて原文の香りを奪ってしまうこともある。とても難しい作業だと思うのです。
しかし、とはいっても音読した途端「こりゃあ駄目だ」とさじを投げた文章もあります。恥ずかしながらマルセル・プルーストですよ。抜粋は「失われた時をもとめて」の第一篇「スワン家のほうへ」からだったんですが、まあ言葉も聞いたこともないものが続々出てくるわ文章はだらだら続くわで、音読しながらため息をついてしまいました。わたしのフランス語力も絶対的に足りないんだろうけれど、まあ文章との相性も大きいよね、いやしかし、日本語でなら大江健三郎の長々しい書き方も結構好きなんだから、やっぱり語学力の問題だわ、などと思いました。こればっかりは、日本語訳の恩恵にあずかっておくべきだったかもしれません。この20世紀を代表する小説の一つと呼ばれる超大作を、フランス語で「楽しく」読める日が来るのでしょうか?
というわけで、フランス語力強化のためにも、新しい愉しみを味わうためにも、少し音読を続けてみようかなぁなどと思っている次第です。「ペスト」は学生のとき読んだかもしれないけど忘れちゃった(そんなことでいいのかっ)という夫にも、きっと良い機会になるに違いありません。
そういえば、音読にはもう一つ、思いもかけない効果がありました。「今日は仕事があるから、もしソファで寝そうになっていたら起こしてね」という夫、眠そうに目が垂れて来ても、わたしが音読を始めるとしゃっきり目が覚めます。あんまり聞き苦しくて、眠気がふっとぶんだそうです。
by poirier_AAA
| 2010-06-10 18:54
| 言葉を学ぶ
|
Comments(3)
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by
Toto
at 2010-06-17 04:16
x
訳本はニュアンスが伝わりにくいし、カミュだったら翻訳されたのがずっと前だったりするでしょうから言葉も古いですよね、きっと・・・
フランス語の偉いところは200年経ってもあまり古さを感じないところですよね。
昔ディドロの"ラモーの甥"を読んだ時に日本語訳の本も買ったのです。
最初、フランス語のみで読んでいるときにはちょっと魅力的と思っていた"ラモーの甥"が、日本語訳ではいきなり拙者言葉になっていて魅力半減・・・
読む気を失いました。
見てみたらその訳本の初版は1940年。
日本語は6,70年でもうまったく別な言葉だったんですよ。
なんだかショックでした。
だからなるべく言語で読みたいと思いましたが、私の場合時間がかかります。
気長にいくしかないでしょうね。
がんばりまっす!
フランス語の偉いところは200年経ってもあまり古さを感じないところですよね。
昔ディドロの"ラモーの甥"を読んだ時に日本語訳の本も買ったのです。
最初、フランス語のみで読んでいるときにはちょっと魅力的と思っていた"ラモーの甥"が、日本語訳ではいきなり拙者言葉になっていて魅力半減・・・
読む気を失いました。
見てみたらその訳本の初版は1940年。
日本語は6,70年でもうまったく別な言葉だったんですよ。
なんだかショックでした。
だからなるべく言語で読みたいと思いましたが、私の場合時間がかかります。
気長にいくしかないでしょうね。
がんばりまっす!
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by
Toto
at 2010-06-17 04:27
x
マルセル・プルーストは私もダメでした。一つの文章が1ページくらい続く時もありますよね。読解力に乏しいので「いったいこれは誰を形容しているんだっけ?」てな感じで何度も戻らなければいけない感じで、なかなか進まず・・・
おっしゃるとおり、フランス語って一つの言葉が担う範囲が広いから、一つしかない答えを探すことしか教育されていない日本人にはとても難しいですよね。やればやるほど「私って日本人だな。」って自覚します。悲しいかな・・・
ご主人の眠気覚ましになっていたという話、受けました。
うちの夫は日本人なので、もし私が朗読したらもたもたしているうちにぐっすり寝そう!(爆)
おっしゃるとおり、フランス語って一つの言葉が担う範囲が広いから、一つしかない答えを探すことしか教育されていない日本人にはとても難しいですよね。やればやるほど「私って日本人だな。」って自覚します。悲しいかな・・・
ご主人の眠気覚ましになっていたという話、受けました。
うちの夫は日本人なので、もし私が朗読したらもたもたしているうちにぐっすり寝そう!(爆)
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by
poirier_AAA at 2010-06-17 05:50
Totoさん、一度に3件もコメントが入っていたのは初めてで、コメントボックスを開ける時は非常に緊張してしまいましたよ。たくさん書いていただいてありがとうございました。ひっそり開設中のブログですが、やはり読んで感想を書いて下さる方がいるのは嬉しいものですね。
原語のテクストと翻訳版は、別ものと考えた方がいいのかもしれないという気がします。原語に忠実であろうと努力すればするほど、日本語の文章としては?となりがちですし、かといって思い切って日本語らしさを追求して意訳すると、今度はオリジナルと雰囲気が変わってしまったりします。ずっと傍にいて気になってたまらない相手なのに、なかなか恋愛関係まで発展しない関係みたいだと思いますよ。翻訳があまり好きになれなくて、それなら原語で読んでしまえと思って買った本が、実は山のように溜まっています。これを全部読み尽くしたら、英語もフランス語も相当力がつくような気がしますよ〜。
映画の原作も買われたんですね。わたしも早く「ペスト」を読み終わって後を追います〜。読み終わられたら、ネタばれにならない範囲で感想を教えて下さいね。
原語のテクストと翻訳版は、別ものと考えた方がいいのかもしれないという気がします。原語に忠実であろうと努力すればするほど、日本語の文章としては?となりがちですし、かといって思い切って日本語らしさを追求して意訳すると、今度はオリジナルと雰囲気が変わってしまったりします。ずっと傍にいて気になってたまらない相手なのに、なかなか恋愛関係まで発展しない関係みたいだと思いますよ。翻訳があまり好きになれなくて、それなら原語で読んでしまえと思って買った本が、実は山のように溜まっています。これを全部読み尽くしたら、英語もフランス語も相当力がつくような気がしますよ〜。
映画の原作も買われたんですね。わたしも早く「ペスト」を読み終わって後を追います〜。読み終わられたら、ネタばれにならない範囲で感想を教えて下さいね。