2024年 03月 12日
自分を背負っていく |
フランスには大学受験というものがない。高校卒業後に進学を希望する場合は希望進学先をシステムに登録する。ここには高校3年の2学期までの成績も登録される。あとはこのシステムのアルゴリズムで入学可、不可に振り分けられる(グランゼコール準備クラスの場合はまた違うらしい)。フランスには有名なバカロレアという試験があるけれど、これは高校卒業資格試験であって大学などの進学先決定には影響を及ぼさない(ただし高校2年のうちに行われるフランス語のバカロレアだけは加味される)。いい学校に進学したいならバカロレア云々の前に普段の学校生活で結果を出さないといけない。
ときどき、我が家の双子が揃ってキーッと苛立って怒ることがある。学校のテストで狡いことをする子がいること、それに対して教師がきちんと咎めないことが彼らとしてはものすごく許せないらしい(もちろん、そうしたことが当たり前に横行しているわけではない。たまにそういうことがある、という話)。自分は地道に努力してカンニングもせずに全部の試験を受けている、その中には難しくていい点が出せないテストもある。それなのに、語学の試験でスマホ翻訳を使う子がいたせいでクラスの平均点がまさかの18点超え(20点満点なので百点満点なら90点超えということ)だったとか。あるいは、悪い点をとりたくないからわざと試験を欠席し、あとからレポートのような簡単なものを提出していい点を取ろうとする人がいるとか。
想像するに、おそらく「如何に良い点数を記録として残すか」という巧いやり方があるのだと思う。教師だってそういうものが存在することには間違いなく気がついているだろう。けれど彼らだって自分の生徒には少しでもいい学校に行って欲しいという気持ちがあるだろうから、わざわざことを荒だてたり取り締まったりせず黙認しているのじゃないかな。
息子たちはこれを、狡い、信じられない、という。そんなズルをして得た成績なんて嘘もいいところじゃないか、と。そんな狡い手を使って成績をあげる人達とそういうことを一切せずに頑張っている自分たちが、どうして同じ土俵で競わなければならないのか、と。息子たちの気持ちはまぁわかる。高校生の頃のわたしだったら一緒になって憤ったかもしれない。
でも、いまはちょっとちがう。そんなの放っておきなさい、と言う。そこで狡い酷いとイラつくことに時間を使うくらいなら、人は人、自分は自分とあっさり割り切って、自分のやり方でいかに結果を出すかを考える方がよっぽど前向きだと思う。他の人のようにすればもっと簡単にいい点が取れることをはっきりわかっている。でもそれをしない、できない。その時点でもう彼らの進む道は決まってしまっている。地道にいくしかないのだ。とびぬけて輝きはしないかもしれないけれど、自分でひとつずつ積み上げた土台は出来上がっていく。それは決して悪いことじゃない。
息子たちが真似できないことをする子たちだって、とりあえずいい成績を取るという部分では成功しているかもしれないけれど、これは言ってみればメッキとかイミテーションでできた王冠のようなもの。ぱっと見で人を騙せたとしても、本物ではないとバレてしまったときには本人がそのツケを払い、必死で埋め合わせていかなければならない。あるいはメッキを重ねていくことになるかもしれない。これは後になってからすごくエネルギーが要る。
ある行為をするかしないか、何を選ぶか。その選択の結果を人は背負って生きることになるのだと思う。世の中はそもそも公平ではないし、その世の中をするすると巧妙に苦もなく生きていく人もいれば、ひどく不器用になんとか頑張って生きていく人もいる。だいたい我が家は不器用でズルがきわめて下手な血筋なのだ。君たちの父親はレストランの会計で、頼んだはずのミネラルウォーターが請求から漏れていると正直に自己申告し、あぁそのくらいいいからとお店の人に苦笑いされても、食べた分はきちんと払うとお金を出す人だ。それに、ポルトガルにいる祖父母を見てみればいい。野菜を育てるのだって羊の面倒を見るのだって、楽して結果を出そうと思ってできることじゃない。ひたすら地道に世話してこその結果をわたしたちはおすそ分けしてもらっているのだ。血は争えないんだよ、きっと。いかに効率よくいい結果を得るか、それを考えるのは決して悪いことではないけれど、それがすべてとは思って欲しくない。正直者はバカを見ると笑う人がいたっていいじゃない、わたしたちは自分たちができるやり方でできるだけ良い結果を目指して行こう?
狡いことをする人が許せない、そう思う心の裏には、自分にはできないこと、つまり手の届かない月に憧れるような気持ちや、どうして自分は器用に生きられないんだという自己嫌悪や悔しさもあるかもしれない。そんなことを考える自分がまた嫌だったりするかもしれない。いろんな気持ちを経験しながら、人は大人になっていくんだろうね。
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by poirier_AAA
| 2024-03-12 20:46
| 子どもと暮らす
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