2018年 01月 31日
ユゴーとスタンダール |
夫が「ユゴー伝」の佳境にさしかかっている頃、
わたしはわたしでスタンダールの「赤と黒」を読み始めた。
読み飛ばさずにわからないところを調べながら読んでいるので、
こちらは遅々として進まない。
ユゴーもスタンダールもフランスの19世紀文学を代表する作家である。
‥‥というところまでは、さすがになんとなく知っている。
でも、それだけ。
ユゴー、スタンダール、バルザック、ゾラ、、、、
このあたりの作家は名前と代表作しか知らず、
19世紀の作家ということで、団子のように一塊になっている。
それがどういうことか例えれば、
南総里見八犬伝(1814年)と鴎外の舞姫(1890年)を一緒にするようなもの。
同じ19世紀といっても、ひとくくりにするのは乱暴すぎる。
こういうときに大変役に立つのが、
篠沢秀夫著「篠沢フランス文学講義 I」だ。
著者が学習院仏文科で行った授業を書き起こしたもので、
ゆえに話が本題から逸れてあちこちに飛んだりするのだけれども、
ふつうの文学史を読んでいるだけではよくわからないような、
具体的な話や縦横のつながりにまで言及しているので、
ものすごく参考になるし、おもしろい。
これを引っ張り出してきて、スタンダールの部分を読んでみた。
すると、そこにスタンダールとバルザックとユゴーの比較が出てきた。
それぞれの生没年はこうだ。
スタンダール(1783-1842)
バルザック(1799-1850)
ユゴー(1802-1885)
スタンダールとバルザックの年齢差が16なのだが、
この16年が、ものすごく大きいと篠沢は説明している。
なぜかというと、これが18世紀の終わりから19世紀の初めのことだから。
フランス革命からナポレオンの帝政を経て、また王様が戻ってくる。
政治が、与党が変わるなどというレヴェルでなく、コロコロ激変する。
18世紀の終わりに生まれていたスタンダールは、
若い時にナポレオンの軍隊にもいて、実際に戦闘の場も経験している。
ナポレオン軍が華やかだった時の記憶をはっきりと持っている。
でも、バルザックにはそれがない。
バルザックが知っているのは、ナポレオンが失墜した後の時代。
ナポレオンと共に戦った兵士たちが安い失業手当金を貰って解雇され、
なにかうまい話はないかとブラブラしている、そんな時代なのだと。
それがユゴーになるとさらに違いが大きくなる。
スタンダールの小説の中に出てくる戦闘の場面が
主人公が実際に体験したこととして描かれているのに対し、
(土が変なふうに飛ばされているのをみて、あれが砲弾かと了解する、など)
ユゴーの「レ・ミゼラブル」に出てくるワーテルローの戦いは
もう歴史書を調べて書いたかのような詳細さ。
つまり、部隊がどんなふうに配置されて何人兵士がいて、というように
細かい、全体を見渡したような記述になっているのだそうだ。
なるほどねぇ、とすっかり感心して嘆息した。
こういうことは、もちろん自分で調べればものすごく楽しいだろうけれども、
膨大な時間と労力、それから熱意と集中力がいるわけで、
その大変な作業をかわってやってくれて、
結果得られた大事なことを、こうして人に教えてくれる人がいるというのは、
なんと恵まれた、ありがたいことであろうかと思ったことだ。
本を読む喜びというだけでなく、
なにか豪華なおまけをつけて貰ったような感じ。
ナポレオンの時代を身を以て体験した人が書いた小説なのかと思うと、
べつにナポレオンを崇拝しているわけでもないのに、
なにか特別な、とても貴重なものを読んでいる気がする。
篠沢秀夫はこう書いている。
スタンダールの小説は筋ははっきりしています。筋を書くだけだったらそれは簡単なんです。ところが、スタンダールの小説はいずれも政治小説という面があるんですね。この面を我々が今日読むと読み飛ばしてしまうんです。
(篠沢フランス文学講義 I 220頁)
う〜ん、読み進むのが楽しみになってきた。
by poirier_AAA
| 2018-01-31 18:24
| フランス語を読む
|
Comments(2)
Commented
by
echalotelles at 2018-01-31 20:51
poirierさんの読書ノートのはじまりはじまり~(*‘∀‘)
篠沢氏のこの本、なぜか私も持っています。
今度引っ張りだしてきて、じっくり読んでみよう!
私も今年は読書の年にしよう。と繰り返し言っている毎日です。笑
篠沢氏のこの本、なぜか私も持っています。
今度引っ張りだしてきて、じっくり読んでみよう!
私も今年は読書の年にしよう。と繰り返し言っている毎日です。笑
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Commented
by
poirier_AAA at 2018-02-01 16:36
> echalotellesさん、こんにちは。
この本、わたしは数年前に全巻買い集めました。すごく面白いので、ときどき引っ張り出して来ては読み耽ります。でもこの面白さは、いま自分がフランスに住んでいるから、フランス語で読むようになったからかもしれないな、とも思うのです。第1巻だけでも、読んでいくともうじっとしていられなくなるくらい興奮してしまうんですよ。
わたしも、去年はあまり読めなかったので今年は読むぞ!と思っています。
「2018年は読書の年」ということで、一緒に楽しみましょう〜。
この本、わたしは数年前に全巻買い集めました。すごく面白いので、ときどき引っ張り出して来ては読み耽ります。でもこの面白さは、いま自分がフランスに住んでいるから、フランス語で読むようになったからかもしれないな、とも思うのです。第1巻だけでも、読んでいくともうじっとしていられなくなるくらい興奮してしまうんですよ。
わたしも、去年はあまり読めなかったので今年は読むぞ!と思っています。
「2018年は読書の年」ということで、一緒に楽しみましょう〜。