2017年 09月 14日
それぞれの言い分 |
ポルトガルの義両親の家の敷地のすぐ脇に、電柱が1本立っている。
道路と家のフェンスの間にあるそのコンクリート製の電柱に、
義両親のフェンスを這っていたノウゼンカズラの枝が1本巻き付き、
続いて他の枝も巻き付き始め、あれよあれよという間に揃って這い上り、
元気に花を咲かせるようになった。
これはマズイのではなかろうか?
あるとき夫が言い出した。
そろそろ枝を払わないと、そのうち電線にまで伸びてしまう。
義父が意を決して、その株を枯らすことになった。
次にポルトガルを訪ねると、枝は見る影もなく枯れていた。
ただ、枝は枯れてもしっかり巻きついているので一人では落ちない。
誰かが枯れ枝を払わねばならぬ。
その仕事をするのは若いわたしたちしかないよね。
夫を誘って、夏休み中に枯れ枝除去作業にとりかかった。
それに気がついた義父も長い棒を手に応援にやってきた。
田舎の、大して高くない電柱だと思ってたかをくくっていたが、
実際にハシゴをかけて登ってみると、意外と高かった。
ハシゴだと踏ん張れないので力技が使えない。
電柱のすぐ脇の塀によじ登って手を伸ばして作業することにした。
小さい頃には塀によじ登り、木によじ登りして鍛えた体である。
あの経験がここで生きるとはね〜
そう思いながら、わたしは猿(ましら)のごとく塀によじ登った。
それをみて血相変えたのは夫と義父である。
危ないからそんなことをしちゃいけない。
キミはすぐに降りなさいよ。ボクがやるから。
夫は、たぶんわたしの怪我を心配している。
義父はフンと鼻を鳴らして唇の端でわらった。
それは女の仕事じゃない。
昔気質の義父の中では、男の仕事と女の仕事ははっきり分かれている。
でも、残念ながらわたしは人がなんと思おうと気にしないのだ。
背が低いことを除けば、どう考えても夫よりわたしの方が適役だ。
わたしの方が圧倒的に身が軽い。体の柔軟性も高い。経験もある。
それに、夫に怪我をされる方が困る。
義父だってそうだ。
80過ぎの脚の悪い義父に危ないことはさせられない。
これは誰がどうみても若い者がすべき仕事だ。
しかし、3人そろって頑固なので、誰も後に引かない。
それぞれがそれぞれ「自分がやるのが一番うまくいく」と思い込んでいる。
気がつけば義父はハシゴの上におり、夫は塀に登っていた。
危ない!血相を変えるのはわたしの番だった。
ともかく義父に降りてもらわねば。
高いところで3人して誰が降りる、誰が下りないと言い争った挙句、
わたしに続いて義父が地面に降り立ってくれたときには、
安堵のあまり枯れ枝払いなんてもうどうでもいいと思ったほどだ。
あぁ、お義父さん、怪我がなくてよかった〜。
誰かが怪我をする前に切り上げようということになり、
それ以上の仕事を断念し、下におちた枯れ枝を拾って作業を終えた。
しかし、惜しいことだ。
わたしは上を見上げて思った。
邪魔が入らなければもう少し上まで行けたかもしれないのに。
あるいは、夫も義父も同じようなことを考えていたかもしれない。
妻が老父が頑張ろうとしなければ、自分一人でもう少し頑張れたのに。
女がしゃしゃり出て来なければ息子と2人でもう少し作業できたのに。
ふんわりとフラストレーションの雲が漂っている感じだろうか?
それぞれにそれぞれの言い分がある。
人が複数いるってそういうことなのだろう。
それぞれの言い分が拮抗するなかで、
最後は共通のメリット(誰も怪我をしないこと)に落ち着いた。
仕事は綺麗に片付かなかったけれども、まぁこういう終わり方もありかな。
とりあえず半分以上はきれいになったわけだし。
しかし、植物の力、ものに巻きつく力、生命力はすごい。
前に読んだ、意志を持った森の物語を思い出してしまったよ。
by poirier_AAA
| 2017-09-14 00:59
| 日々の断片
|
Comments(4)
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fusk-en25 at 2017-09-14 02:33
あはは。。って笑いたいような素敵な光景でした。
何と言ってもお互いを思いやってる。
「勝手に取りなさいよ。。あんたならできるでしょ」でなしに。。
こう言う言い分いいですね。
ちょっと残った不満なんか。。くそ食らえだわ。
植物はすごい。
我が家のような都会?の一室でも
うーんと頑張って生えようとして根や芽をだす植物を見ると。
あっぱれって言いたくなります。
何と言ってもお互いを思いやってる。
「勝手に取りなさいよ。。あんたならできるでしょ」でなしに。。
こう言う言い分いいですね。
ちょっと残った不満なんか。。くそ食らえだわ。
植物はすごい。
我が家のような都会?の一室でも
うーんと頑張って生えようとして根や芽をだす植物を見ると。
あっぱれって言いたくなります。
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Ich
at 2017-09-14 10:52
x
梨の木さんの心身共の力強さにあらためて脱帽! どの小説よりも面白く読ませて戴きましたヽ(^o^)丿
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poirier_AAA at 2017-09-14 16:08
> fusk-en25さん、こんにちは。
作業中に村人が何人かそばを通り過ぎて行ったのですが、わたしたち3人、相当可笑しな図に見えただろうなぁと思って(笑)。
植物も小動物も逞しいですよねぇ。こんなに環境の悪い都会なのに、したたかに生き延びているのですから。幹線道路沿いや飛行場に住んでいるウサギなんかもいますし、こんな人間の近くで子育てしちゃう小鳥もいますし、こーんなに空気の悪いところでも元気に育つ植物がたくさんありますし、、、、くらべると人間の生命力なんて弱いものだと思いますよ。
作業中に村人が何人かそばを通り過ぎて行ったのですが、わたしたち3人、相当可笑しな図に見えただろうなぁと思って(笑)。
植物も小動物も逞しいですよねぇ。こんなに環境の悪い都会なのに、したたかに生き延びているのですから。幹線道路沿いや飛行場に住んでいるウサギなんかもいますし、こんな人間の近くで子育てしちゃう小鳥もいますし、こーんなに空気の悪いところでも元気に育つ植物がたくさんありますし、、、、くらべると人間の生命力なんて弱いものだと思いますよ。
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poirier_AAA at 2017-09-14 16:18
> Ichさん、こんにちは。
やろうとすればできないことはない!というのが持論のわたしなのですが、その「心身共の力強さ」が、夫には考えなしの無鉄砲さに見えるらしいです(ハハハ)。
わたしが自信過剰すぎるのか、夫の判断が冷静で正しいのか、どちらでしょうね〜?
やろうとすればできないことはない!というのが持論のわたしなのですが、その「心身共の力強さ」が、夫には考えなしの無鉄砲さに見えるらしいです(ハハハ)。
わたしが自信過剰すぎるのか、夫の判断が冷静で正しいのか、どちらでしょうね〜?