2017年 07月 01日
シモーヌ・ヴェイユ逝く |
フランスの政治家シモーヌ・ヴェイユが、昨日6月30日に亡くなりました。
あと2週間で90歳を迎えようというところでした。
日本ではシモーヌ・ヴェイユと書いて検索すると、
20世紀前半に生きた哲学者のシモーヌ・ヴェイユの話がずらりと並びますが、
アルファベットで書くとVeilとWeilで違うのです。
そしてこれはわたしの受けた感じにすぎませんが、
哲学者のWeilは教育のある人を中心に知られている人物であり、
政治家のVeilは社会階層や教育程度を問わず社会的に知名度が高いのです。
シモーヌ・ヴェイユは戦中にアウシュビッツに収容され、そこから生還しました。
弁護士であり、のちに政治家となって大臣まで経験した人です。
彼女の名前をここまで有名にしたのは74年から75年にかけての中絶の合法化です。
ジスカールデスタン内閣で保健相の立場にあった彼女は、
中絶合法化のための法案を国会に提出しました。
1974年当時の下院の男女構成比率をみると女性議員は全体のわずか1.8%。
圧倒的に男性優位(マッチョ)な環境でした。
しかも彼女の政治的ポジションは中道右派ですから、
政党内はカトリック的な道徳観が強く、後ろ盾は少ない状態だったのです。
その難しい状況(プラス彼女個人への攻撃)を乗り切っての合法化達成でした。
彼女の国会での演説は歴史的な映像として記録に残っています。
これによって女性は妊娠継続したいかどうか意思表示できるようになり、
きちんとした医者による中絶手術をうけられるようになりました。
命の危険からも投獄の不安からも解放されたのです。
アカデミー・フランセーズ会員である彼女は
immortelle(不滅者、アカデミーフラセーズ会員の別称)と呼ばれます。
ですから彼女の死を la mort d'une immortelle と伝えるメディアもありました。
不滅の人の死といえば矛盾しているようですが、
たとえ本人は亡くなったとしてもその足跡が消えることはない、とも聞こえます。
彼女の訃報が流れるや、早くもパンテオン入りの話が出ています。
来週の水曜日はマクロン大統領出席でアンヴァリッドで公葬、
フランス国旗には喪章がつけられ、欧州旗は半旗となるそうです。
わたしは夜8時からfrance infoでオマージュ番組を聞きました。
彼女はどんな人だったか?という問に対して出てきた言葉は、
courageuse(勇気のある)
icône(イコン)
juste(公正な)
こういう言葉で称えられる政治家もいるのだ、と胸が熱くなりました。
彼女の自伝「Une vie」を読んだこともあって、
わたしにとってはちょっと他とは違う特別な人だったのでした。
by poirier_AAA
| 2017-07-01 23:34
| この人あり
|
Comments(2)
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by
Mtonosama at 2017-07-02 06:40
シモ―ヌ・ヴェイユと聞けば、やはり哲学者の方を思い浮かべるので、冒頭で「?」と思いました。
立派な方が亡くなっていく・・・
世の常とはいえ、後ろ盾を失うようで心細いですね。
立派な方が亡くなっていく・・・
世の常とはいえ、後ろ盾を失うようで心細いですね。
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by
poirier_AAA at 2017-07-02 16:13
> Mtonosamaさん、こんにちは。
そうなんです、本当に「後ろ盾を失う」感じがしますよね。
政治家って(日本だけでなくフランスでも)、口では上手いことを言っていてもいつ裏切るかわからない、結局は私腹を肥すことを考えてるだけじゃないか、みたいな見られ方をすることが多いですが、この人だけは人間的に信用できると見られていたような気がします。
政治家が「公正な人」と讃えられるって、結構すごいことですよね。
そうなんです、本当に「後ろ盾を失う」感じがしますよね。
政治家って(日本だけでなくフランスでも)、口では上手いことを言っていてもいつ裏切るかわからない、結局は私腹を肥すことを考えてるだけじゃないか、みたいな見られ方をすることが多いですが、この人だけは人間的に信用できると見られていたような気がします。
政治家が「公正な人」と讃えられるって、結構すごいことですよね。