2017年 06月 23日
祖母と虫 |
わたしもそうだが、祖母は虫が大嫌いだった。
足のない、這いずる虫がダメなのである。
夏になると親戚や近所の農家が新鮮な果物や野菜を持ってきてくれた。
枝豆を根からそっくり引っこ抜いて、
根に着いた土も乾かぬうちに持ってきてくれる人もいた。
そんなときは、すぐに鞘をもいで茹でる。
採りたて茹でたての豆の旨かったこと!
あの豆の味は今でも忘れられない。
しかし、その新鮮な豆の木には、もれなく嬉しくないモノがついてきた。
毛虫である。
豆があれだけ美味しいのだから、葉だって相当美味しいのだろう。
枝豆の葉には毛むくじゃらで太った真っ黒な毛虫が必ずついていた。
そして、葉を動かすと地面に落ちて、全速力で逃げるのである。
恐ろしく足の速い毛虫だった。
見るたびに身が竦んだ。
こわごわと二人で豆をもぎながら、祖母は話してくれた。
あたしは小さい頃から本当に虫が嫌いでね。
だから農家には絶対にお嫁に行きたくなかったんだよ。
祖母の実家は小作を何人も抱える大農家だった。
部屋がいくつもある大きな家に住んでいたが、
蚕の季節になると、家族が生活するのに必要な畳数枚分を残して、
家中の畳を全部上げ、蚕の棚を置いたという。
朝な夕なにお蚕さんが桑の葉を喰むさわさわした音を聞いていたのだ。
そういう家だから、お蚕さんを手で持つのはごく当たり前のことだった。
虫の嫌いな祖母にはそれがどうしてもできなかった。
それで祖母は祖父のところに嫁ぐことになった。
祖父の実家も大農家だったが、祖父の上には何人も男兄弟がいたから、
祖父には猫の額ほどの地面も分け与えられず、
したがって祖父は農業以外の仕事で身を立てるしかなかった。
祖母は念願叶って虫に関わらなくてすむ生活を得た。
しかし、かわりに相当貧乏したそうである。
ときどきふっと思う。
もし祖母が虫嫌いでなかったとしたら。。。
祖母はきっと若くして大農家に嫁いで、まったく違う人生を送ったことだろう。
そうしたら、そもそも父と母が巡り合わなかっただろうし、
わたしは生まれることもなかった。
よしんば同じように生まれたとしても、東京に出たいと思ったかどうか。
わたしが虫嫌いでなかったら、そのまま田舎で農業していたかもしれないのだ。
そんなことを考えると、
夫と縁ができたことも、双子を授かったことも、
いまこうしてフランスで生活していることも、
宝くじで百万円当てるくらい起きる確率の低かったこと、
ただの偶然の産物にすぎないのではないか?という感じがするのだ。
すべては祖母の虫嫌いから始まったことなのである。
今のわたしがあるのは祖母の実家のお蚕さんのおかげなのである。
とはいいながらも、
あいかわらずその恩人の姿が怖くてたまらないのであるが。
by poirier_AAA
| 2017-06-23 19:43
| 思い出す
|
Comments(6)
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fusk-en25 at 2017-06-24 06:07
私。。
蝶や蜻蛉や蝉はいわゆる虫の範疇ではない?かもしれないけれど。
虫類を捕まえるのが大好きで。
土蜘蛛の巣をひっぱって蜘蛛を捉えたり。
蜘蛛の子が入っている袋を開けて。まさに蜘蛛の子を散らすのを見たり。。野性味溢れる?ことばっかりしてました。
だからと言って、これがフランスに住むのにつながるか?
と思うと。。おそらく神様のお札やお守りを開けたくてたまらなかった意識。。
「なんで?なんで?」となんでも知りたがる?性質からでしょうか?
蝶や蜻蛉や蝉はいわゆる虫の範疇ではない?かもしれないけれど。
虫類を捕まえるのが大好きで。
土蜘蛛の巣をひっぱって蜘蛛を捉えたり。
蜘蛛の子が入っている袋を開けて。まさに蜘蛛の子を散らすのを見たり。。野性味溢れる?ことばっかりしてました。
だからと言って、これがフランスに住むのにつながるか?
と思うと。。おそらく神様のお札やお守りを開けたくてたまらなかった意識。。
「なんで?なんで?」となんでも知りたがる?性質からでしょうか?
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Mtonosama at 2017-06-24 06:59
私は虫愛ずる姫君でした。
夏休みの宿題といえば昆虫採集が定番の時代の子どもでしたし、都会に住んでいても原っぱはどこにでもあり、そこにはトノサマバッタやキチキチバッタがいました。学校の帰りには一人で原っぱでいつまでもバッタと遊んでいました。今の時代だったらそんな危険なことは絶対できませんよね。
トンボ、セミ、バッタなどのかわきものや蝶々みたいなお粉系も好き。ヘビやトカゲさえいなければ原っぱはワンダーランドでした。
夏休みの宿題といえば昆虫採集が定番の時代の子どもでしたし、都会に住んでいても原っぱはどこにでもあり、そこにはトノサマバッタやキチキチバッタがいました。学校の帰りには一人で原っぱでいつまでもバッタと遊んでいました。今の時代だったらそんな危険なことは絶対できませんよね。
トンボ、セミ、バッタなどのかわきものや蝶々みたいなお粉系も好き。ヘビやトカゲさえいなければ原っぱはワンダーランドでした。
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poirier_AAA at 2017-06-24 19:10
> fusk-en25さん、こんにちは。
まぁわたしも田舎で育ったので似たようなものでして。。。
蝶や鈴虫、セミ、アリ、蟻地獄、カマキリ、なんでもみんな遊び仲間でした。
野性味溢れるというよりは、はっきりいって野生に生きてたと思います。
ただ、それでもどうしてもダメな「虫」がいたんです。
祖母からの隔世遺伝?
こればかりはほぼ半世紀生きても克服できません(笑)。
まぁわたしも田舎で育ったので似たようなものでして。。。
蝶や鈴虫、セミ、アリ、蟻地獄、カマキリ、なんでもみんな遊び仲間でした。
野性味溢れるというよりは、はっきりいって野生に生きてたと思います。
ただ、それでもどうしてもダメな「虫」がいたんです。
祖母からの隔世遺伝?
こればかりはほぼ半世紀生きても克服できません(笑)。
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poirier_AAA at 2017-06-24 19:21
> Mtonosamaさん
あ、わたし、乾きもの系もお粉系も平気ですよ(成虫になっている限り)。
過渡期(蛹)に入ったらもう大丈夫です。
ナメクジも家付(かたつむり)ならまぁ許容範囲内です。
そして、蛇とかトカゲですらまぁ大丈夫なのです。
もうピンポイントで特定の形状の虫が苦手なんですよ〜。
わたしのそだったところは田舎でしたので、小学校時代、夏になると男の子たちが登校前の昆虫採集(朝5時半集合、とか)をしていたんですよ。カブトムシの幼虫を育てるのも流行っていました。もうお母さんたちがお気の毒で。。。
あ、わたし、乾きもの系もお粉系も平気ですよ(成虫になっている限り)。
過渡期(蛹)に入ったらもう大丈夫です。
ナメクジも家付(かたつむり)ならまぁ許容範囲内です。
そして、蛇とかトカゲですらまぁ大丈夫なのです。
もうピンポイントで特定の形状の虫が苦手なんですよ〜。
わたしのそだったところは田舎でしたので、小学校時代、夏になると男の子たちが登校前の昆虫採集(朝5時半集合、とか)をしていたんですよ。カブトムシの幼虫を育てるのも流行っていました。もうお母さんたちがお気の毒で。。。
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kitaoni at 2017-06-27 06:54
お久しぶりでございます。
私も上の方と同じく幼少の頃は虫愛ずる姫でした。
小学校の頃の夏休みの自由研究は昆虫採集で男の子と競っておりました。男の子には負けじのオテンバだったのを思い出しました。他の女の子はみんな男のコの分野を侵食していなかったな〜
虫愛ずるが今の夫との縁を紡いだ痕跡は微塵もありませんけれど..... 庭造りの妄想に嵌って1300坪の荒地を1人で耕し始めた辺りは男の子に負けじの虫愛ずる姫の片鱗を残した老後でしょうかしら⁈
私も上の方と同じく幼少の頃は虫愛ずる姫でした。
小学校の頃の夏休みの自由研究は昆虫採集で男の子と競っておりました。男の子には負けじのオテンバだったのを思い出しました。他の女の子はみんな男のコの分野を侵食していなかったな〜
虫愛ずるが今の夫との縁を紡いだ痕跡は微塵もありませんけれど..... 庭造りの妄想に嵌って1300坪の荒地を1人で耕し始めた辺りは男の子に負けじの虫愛ずる姫の片鱗を残した老後でしょうかしら⁈
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poirier_AAA at 2017-06-27 20:36
> kitaoniさん、こんにちは。
うふふ、みどりさんも虫愛づる姫だったのですね。
‥‥いや、あれだけ庭仕事を愛していらっしゃるのだから、虫が苦手なはずがない!ですね。
そして、人間の好きな美味しい実のなる植物はほぼ間違いなく(まだ成虫になっていない)虫も大好きで寄ってきますから、きっと、みどりさんのところにもたくさんの「虫のお子さま」がいらっしゃるのではないかと、、、こわごわ想像してみるのです。
自分の食べたいものが自分の庭で育てられたら、それに勝る喜びはないですよね。それは義母を見ていても強く感じるのです。でも、どうしても「虫のお子さま」が克服できず。。。。みどりさんの生活は自分には絶対に手が届かない夢のように見えます。
うふふ、みどりさんも虫愛づる姫だったのですね。
‥‥いや、あれだけ庭仕事を愛していらっしゃるのだから、虫が苦手なはずがない!ですね。
そして、人間の好きな美味しい実のなる植物はほぼ間違いなく(まだ成虫になっていない)虫も大好きで寄ってきますから、きっと、みどりさんのところにもたくさんの「虫のお子さま」がいらっしゃるのではないかと、、、こわごわ想像してみるのです。
自分の食べたいものが自分の庭で育てられたら、それに勝る喜びはないですよね。それは義母を見ていても強く感じるのです。でも、どうしても「虫のお子さま」が克服できず。。。。みどりさんの生活は自分には絶対に手が届かない夢のように見えます。