2016年 10月 04日
モッキングバードを撃たないで |
ハーパー・リーの「To kill a mockingbird(モッキングバードを殺すこと」は
邦訳ではなぜか「アラバマ物語」という題になっており、
仏訳は「Ne tirez pas sur l'oiseau moqueur(モッキングバードを撃たないで)」
それぞれ苦労して題をつけている感じがする。
題はすこしずつ違えども、何語で読んでもきっと思うはず。
こんなおもしろい話があったのか!
とにかく読ませる。おもしろい。やめられない。
まだ読んでない人には声を大にして言いたい、ぜひ読んでみて!
映画にもなっていて、グレゴリー・ペックが主演している。
日本では原作よりも映画の方が知られているかもしれない。
舞台は1930年代のアラバマ。
人の出入りがほとんどない田舎の小さな町に
父親と兄と妹の3人家族が住んでいる。
父親は弁護士。母親もう亡くなっている。
黒人家政婦が家事をし、子どもの世話を焼いている。
思春期の入り口にさしかかっている兄のジェム。
勝気でまっすぐな気性の妹、スカウト。
弁護士の父が婦女暴行の容疑をかけられた黒人を弁護することになり、
それが後々になってタイトルの「モッキングバードを殺すこと」
という言葉に繋がっていく。
この説明は映画のあらすじを検索すればわかるので書かないが、
ここで本を読む楽しみがなくなる!などと心配する必要はまったくなし。
たしかに大事な山場ではあるけれど、
これだけではないところがこの本のものすごく面白いところなのだ。
全部で31あるそれぞれの章が、
なにかしら登場人物や町の状況を読み解く鍵になっていて、
山場に向かうための伏線として置かれた退屈な説明話がひとつもない。
幼い少女の言葉を通して語られる物語なので、
はじめのうちは登場人物も町も、ひどく紋切り型で単純だ。
それが、章を経て新しい経験をするたびに少しずつ様相が変わって見え始める。
人も社会も、実はそんなに単純ではないことがわかってくる。
最初は大人びたしっかりした子だと感じられたスカウトが、
実はまだほんの子どもにすぎないということも、読んでいるとわかってくる。
あぁ自分もこんなふうだったかもしれない。
わすれかけていた小さい頃のことを思ったりもした。
そう、子どもの頃何に怒って何に笑って何に泣いたかなんて、
大人になるとたいてい記憶から抜け落ちてしまうのだ。
まるで脱ぎ捨てた服を置き忘れるかのように。
ハーパー・リーのこの物語の凄さは、
スカウトという生き生きとした少女を生み出せたところにある。
子どもの視点で世界を見る、その驚きと喜び、密度の濃さといったら!
とてもアメリカ的な話だとも思った。
こういう物語はたぶんヨーロッパからは出てこない。
ピューリタンの生真面目さなのだろうか?
この弁護士の父親なんかは、まさしくアメリカン・ヒーロー。
高潔で正義感が強く、子どもに恥ずかしくない父親であろうと努力する。
ちょっと大草原の小さな家のローラの父親をも思わせる。
この素晴らしい父親に限らず、人は捨てたものじゃないと希望が持てる。
はっきりと目には見えなくても、人には良心が備わっていると信じたくなる。
あまりにもおもしろすぎたので、
この後何を読んだらいいだろうと悩んでしまうなぁ。
モッキングバードの鳴き声って?と思って探してみました。
by poirier_AAA
| 2016-10-04 20:13
| フランス語を読む
|
Comments(8)
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pallet-sorairo at 2016-10-05 00:12
『アラバマ物語』って、
日本語訳は暮しの手帖社から出ているあの本でしょうか?
それだったら、私は大昔の高校生の時に読んだのですが…。
梨の木さんは何故に今頃手に取ったのかが気になります。
日本語訳は暮しの手帖社から出ているあの本でしょうか?
それだったら、私は大昔の高校生の時に読んだのですが…。
梨の木さんは何故に今頃手に取ったのかが気になります。
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haru_rara at 2016-10-05 16:14
表紙に少女がひとり、写真だったような気がするのですが。
実家にあったのに開いたことがありませんでした。
母の本棚にある本はちょっと敬遠していたからですが、もったいなかったかな。
今度行ったら借りてこよう。
モッキングバードの声、素晴らしいですね!
ご紹介くださってありがとうございます♪
実家にあったのに開いたことがありませんでした。
母の本棚にある本はちょっと敬遠していたからですが、もったいなかったかな。
今度行ったら借りてこよう。
モッキングバードの声、素晴らしいですね!
ご紹介くださってありがとうございます♪
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poirier_AAA at 2016-10-05 16:21
> pallet-sorairoさん、こんにちは。
著者のハーパー・リーは今年の2月に亡くなったのですが、その時にこの本が本屋の目立つところにたくさん並んだのです。それが手に取るきっかけになりました。
作者の名前とモッキングバードという単語はうっすら知っていたものの、読む機会がありませんでした。人に勧められたこともなくて。文庫本になっていないから本屋で見かけることもないですし。。。こんなに面白い話なのに、もったいないことでした。
著者のハーパー・リーは今年の2月に亡くなったのですが、その時にこの本が本屋の目立つところにたくさん並んだのです。それが手に取るきっかけになりました。
作者の名前とモッキングバードという単語はうっすら知っていたものの、読む機会がありませんでした。人に勧められたこともなくて。文庫本になっていないから本屋で見かけることもないですし。。。こんなに面白い話なのに、もったいないことでした。
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poirier_AAA at 2016-10-05 16:28
>haru_raraさん、こんにちは。
そうです、そうです、その本です(パレットさんが書いていらっしゃるように、暮らしの手帖社から出ています)。
もしチャンスがあれば是非読んでみてください。若いころに読んでみたかったという気もしますが、このくらいの年齢になって、子どもの視点も大人の視点も両方持って読むのは、また別な楽しさがあると思いました。
そうです、そうです、その本です(パレットさんが書いていらっしゃるように、暮らしの手帖社から出ています)。
もしチャンスがあれば是非読んでみてください。若いころに読んでみたかったという気もしますが、このくらいの年齢になって、子どもの視点も大人の視点も両方持って読むのは、また別な楽しさがあると思いました。
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kohada
at 2016-10-06 15:19
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梨の木さま、同感、魅了される一冊です。30年以上も前にアメリカの大学寮のルームメートの書棚から借りて読み、一気によみました。バス待ちの時も読んでいて、見知らぬ人から「それ良いでしょう、私も大好き」と言われたことを思い出しました。暮らしの手帖社の日本語翻訳も素晴らしくて、登場人物の特徴や性格をとてもよくとらえていると思います。数年前に著者の評伝がアメリカで出版され、翻訳も出たので昨年読みましたが、とても興味深かったです。映画も機会があればどうぞ。
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poirier_AAA at 2016-10-06 16:10
> kohadaさん、こんにちは。
読んでよかったと心から満足出来る本ですよね。
どうしてこれまで目に留まらなかったのだろうと、読みながら何度も思いました。また読み返すと思いますし、もう少ししたら子どもにも勧めてみたいと思っています。
ハーパー・リーは今年の2月に亡くなっていますが、それに前後して未発表の原稿が出版されたのです。アラバマ物語の続編にあたる話だそうです。アラバマ物語はこれだけで十分に完成しているので、続編を読んでがっかりしたらどうしようなんて迷っています。(評価が分かれているそうですよ)
映画は、いま図書館で順番を待っているところです。観るのが楽しみです。
読んでよかったと心から満足出来る本ですよね。
どうしてこれまで目に留まらなかったのだろうと、読みながら何度も思いました。また読み返すと思いますし、もう少ししたら子どもにも勧めてみたいと思っています。
ハーパー・リーは今年の2月に亡くなっていますが、それに前後して未発表の原稿が出版されたのです。アラバマ物語の続編にあたる話だそうです。アラバマ物語はこれだけで十分に完成しているので、続編を読んでがっかりしたらどうしようなんて迷っています。(評価が分かれているそうですよ)
映画は、いま図書館で順番を待っているところです。観るのが楽しみです。
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Yozakura
at 2016-10-15 19:51
x
梨の木さま:初めまして
紹介されています図書の標題に含まれていた言葉 "a mocking bird" を見かけ、かなり昔にヒットした American pop を想い出し、検索してみました。
--- when the sun in the morning peeps over the hill, ---- to wake up in the morning to the mockingbird's trill, ----
確か、上記のような朝の心地よい郊外の住宅地での目覚めを詠った歌詞と、それを♪音符♫で綴った軽快な旋律が上手く適合しており、
一度聞いただけで、歌詞の粗筋を覚えて仕舞った程です。唄っていたのは、今、巨大な動画サイトで検索しますと、どうやら Patti Pageだった模様。私は米国南部の自然環境や社会環境には無知ですが、ひょっとして、向こうでも郊外の住宅地には、この様な小鳥が朝から活動して居るのでしょうか?
この歌は、引用されている図書の内容とは無関係かも知れません。掻き回して、御免なさい。ただ、その「物真似鳥」と云う英語を久し振りに目にして、その昔、聞き流していた流行歌を思い出したのです。懐かしい言葉の紹介、有難う御座います。
お元気で。
紹介されています図書の標題に含まれていた言葉 "a mocking bird" を見かけ、かなり昔にヒットした American pop を想い出し、検索してみました。
--- when the sun in the morning peeps over the hill, ---- to wake up in the morning to the mockingbird's trill, ----
確か、上記のような朝の心地よい郊外の住宅地での目覚めを詠った歌詞と、それを♪音符♫で綴った軽快な旋律が上手く適合しており、
一度聞いただけで、歌詞の粗筋を覚えて仕舞った程です。唄っていたのは、今、巨大な動画サイトで検索しますと、どうやら Patti Pageだった模様。私は米国南部の自然環境や社会環境には無知ですが、ひょっとして、向こうでも郊外の住宅地には、この様な小鳥が朝から活動して居るのでしょうか?
この歌は、引用されている図書の内容とは無関係かも知れません。掻き回して、御免なさい。ただ、その「物真似鳥」と云う英語を久し振りに目にして、その昔、聞き流していた流行歌を思い出したのです。懐かしい言葉の紹介、有難う御座います。
お元気で。
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poirier_AAA at 2016-10-17 17:30
> Yozakuraさん、こんにちは、はじめまして。
紹介していただいた歌、ネットで探してみました。
明るくて愛らしい、気持ちのいい歌ですね。晴れた明るい朝、幸せな朝を思います。
わたしもアメリカのことはほとんど知らないのです。でも、この本に出てくるmocking birdは、その土地ではよく見かける(よく声を聞く)ごく普通の野鳥という感じでした。楽しくさえずるだけの(罪のない)鳥を撃つ理由はない、というのがこのタイトルの意味するところなのです。
本のタイトルからアメリカン・ポッポスに話が繋がって、知らなかった曲を紹介していただいて、こういう連想ゲームみたいなことは楽しいですね。ごめんなさいなんて、とんでもない。こういう話を聞かせていただくのはいつでも大歓迎です。ありがとうございました。
紹介していただいた歌、ネットで探してみました。
明るくて愛らしい、気持ちのいい歌ですね。晴れた明るい朝、幸せな朝を思います。
わたしもアメリカのことはほとんど知らないのです。でも、この本に出てくるmocking birdは、その土地ではよく見かける(よく声を聞く)ごく普通の野鳥という感じでした。楽しくさえずるだけの(罪のない)鳥を撃つ理由はない、というのがこのタイトルの意味するところなのです。
本のタイトルからアメリカン・ポッポスに話が繋がって、知らなかった曲を紹介していただいて、こういう連想ゲームみたいなことは楽しいですね。ごめんなさいなんて、とんでもない。こういう話を聞かせていただくのはいつでも大歓迎です。ありがとうございました。