2016年 09月 26日
少年時代 |
本に夢中になって、先週は心がアフリカに跳んでいた。
それが、Gaël Fayeの処女作「Petit pays」(ガエル・ファイユ「小さな国」)。
小さな国とここで呼ばれているのはブルンジだ。
ブルンジはルワンダのすぐ南に位置する、ルワンダと同じくらいの小さな国。
西にコンゴ、東にタンザニアと大きな国に両側から挟まれて、
ブルンジとルワンダは小さな双子のように並んでアフリカの真ん中にある。
ルワンダといえば1994年に起きたジェノサイドのことを思い浮かべる。
ツチ系とフツ系の部族の対立。凄惨な殺し合い。
すぐ南に位置するブルンジも、国民の大半がフツかツチに属す。
ルワンダ国内の摩擦は、そのままブルンジにも容易に飛び火する。
ブルンジの首都ブジュンブラは、
西隣のコンゴとの国境をなすタンガニーカ湖のすぐ脇に位置するので、
コンゴ(南ギヴ州)との国境を越えての行き来も容易だ。
よってこの南ギヴ州も、ルワンダとブルンジと無関係ではいられない。
加えてこの地域には豊富な天然資源が眠っている。
部族の対立、天然資源をめぐる利権争い、政治的対立、第三国の介入、
それらが複雑に絡まり合い、人を殺し合いに駆り立てる。
この小説の主人公ガブリエルは、この小さな国ブルンジに生まれた。
父親はフランス人。
兵役でアフリカに来て以来、ここが気に入って住み着いている。
アフリカで、白人であることの特権を大いに享受している。
母親はルワンダ人。
60年代の祖国での紛争を避けてブルンジに逃げてきた。
ツチ系でスラリと背が高い。
物語はガブリエルの10歳から13歳までを描いているのだが、
これがちょうど90年代の前半に当たる。
少年は、ちょうど子どもから大人に移り変わる多感な時期に、
この容赦ない現実と向かい合うことになる。
とにかく少年をとりまく社会の動きが大きいので、
ともするとその歴史的な流れに注意を奪われそうになるのだけれど、
この小説のテーマは1人の少年の子ども時代だ。
子どもらしい幸福、喜び、悲しみ、楽しみ。
それを、社会の容赦ない動きが大人になれと急かしていく。
ガブリエル少年は、その周囲が自分を急かす力に逆らおうとする。
過激化してきた友達を避けて本の世界に逃げたりもする。
でも、やがて逆らえくなるときがくるのだ。
自分の気持ちに正直でいようとすると、父と妹の命が危ない。
ガブリエルは、それで人の命に手をかける。
それから間もなく、フランス政府がブルンジに向けて飛行機を飛ばす。
ブルンジ国内にいる仏国籍保有者を本国に送るための飛行機。
ガブリエルは妹のアナとともにフランスに向かう。
フランスでは命の危険にさらされる心配もなく生きられる。
でも、彼は落ち着かないのだ。
自分は逃げた、と感じている。清算しないまま逃げた、と。
大人になったガブリエルは、再び故郷に向かう。
わたしはアフリカを全く知らないけれども、
この本を読んでいる間はアフリカを感じていたように思う。
太陽、湿度、生い茂る植物、乾季で乾き果てた草原。喧騒。静けさ。
この作家は詩人だと思った。
作家が書いたままのフランス語で読むことができたのも嬉しかった。
パリで発行されている日本語新聞に、
カストール爺こと向風三郎さんが素晴らしいレビューを書いておられる。
これを読めばこの本のことは大体わかる。
でも、あらすじがわかるのと実際に読むのとではぜんぜん違う。
読む楽しさを放棄したらもったいなさすぎる小説なのだ。
向風三郎さんのブログ「カストール爺の生活と意見」では
作家ではなくラッパーとしてのガエル・ファイユも見られる。
フランス語がわかる人にはテレビ番組の抜粋を。
わたしはこれを見てとても興味を惹かれ、読む気になった。
by poirier_AAA
| 2016-09-26 22:58
| フランス語を読む
|
Comments(4)
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Mtonosama at 2016-09-27 05:35
小さな国とはブルンジでしたか。
ルワンダもあの虐殺ばかりが際立ち、映画になり、国連軍の無力さが描かれていましたが、今は豊かで平和な国になり、IT大国なんですってね。
面白そうな本ですね。多分フランス語しかないんだろうな。
早く日本語訳出ないかなあ。
ルワンダもあの虐殺ばかりが際立ち、映画になり、国連軍の無力さが描かれていましたが、今は豊かで平和な国になり、IT大国なんですってね。
面白そうな本ですね。多分フランス語しかないんだろうな。
早く日本語訳出ないかなあ。
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pallet-sorairo at 2016-09-27 09:59
私も日本語訳ぜひ読みたいです。
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poirier_AAA at 2016-09-27 16:04
> Mtonosamaさん、こんにちは。
ブルンジのことはまったく知らなかったので、そうか、そうだったのか!と教えてもらうことがすごく多かったです。そういう意味でも面白かったし、自分の子どもと同じくらいの年頃の子どもが少しずつ大人になっていく姿もまぶしいものがありました。
ところでルワンダがIT大国になっているなんて、ぜんぜん知りませんでした。
アフリカのこと、知らなさすぎですね。。。。
この本はこの夏出版されたばかりのホヤホヤなんです。アマゾンで見るとよく売れているようだし、高校生が選ぶゴンクール賞をとるかもしれないなんて予感もするので、そのうち日本語訳も出るのじゃないでしょうか。その時には是非読んでみてくださいませ。
ブルンジのことはまったく知らなかったので、そうか、そうだったのか!と教えてもらうことがすごく多かったです。そういう意味でも面白かったし、自分の子どもと同じくらいの年頃の子どもが少しずつ大人になっていく姿もまぶしいものがありました。
ところでルワンダがIT大国になっているなんて、ぜんぜん知りませんでした。
アフリカのこと、知らなさすぎですね。。。。
この本はこの夏出版されたばかりのホヤホヤなんです。アマゾンで見るとよく売れているようだし、高校生が選ぶゴンクール賞をとるかもしれないなんて予感もするので、そのうち日本語訳も出るのじゃないでしょうか。その時には是非読んでみてくださいませ。
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by
poirier_AAA at 2016-09-27 16:07
> pallet-sorairoさん、こんにちは。
きっと日本語訳されると思います。その時には是非読んでみてくださいませ。
読んでいる間ずっとアフリカにいる気分だったんです。だから読み終わった時には「今度はどこに行ったらいいだろう?」と悩んでしまいました(笑)
きっと日本語訳されると思います。その時には是非読んでみてくださいませ。
読んでいる間ずっとアフリカにいる気分だったんです。だから読み終わった時には「今度はどこに行ったらいいだろう?」と悩んでしまいました(笑)