2014年 10月 21日
苦手なもの |
今年のノーベル文学賞が発表された翌日、
図書館でパトリック・モディアーノの本を眺めた。
早い時間に行ったからかもしれないが、まだずらりと本が並んでいた。
どれを読んでみようかなぁ。
たっぷり選択の余地がある中から、読み易そうな1冊を選んだ。
家に帰って、あらためて中味に目を走らせているときに、
ページの間に1本の髪の毛が挟まっていることに気がついた。
濃い栗色で、いまのわたしの髪よりもずっと長い。
触るのがいやで、本にはさんだままそっと移動し、
ゴミ袋の上で払い落とした。
わたしは落ちた髪の毛が嫌いなのだ。
ブラシに髪が残っているのもイヤだ。
洗面台やお風呂場に落ちている家族の髪にもいい気持ちはしないが、
それでも素手で拾って捨てることは出来る。
何よりもいやなのは知らない人の髪だ。
美容院で足下に落ちている髪はなぜか気にならない。
でも、更衣室の床に落ちている髪は気になる。
お風呂やプールの脱衣所の濡れた床に落ちている髪はもっと嫌いだ。
市民プールや銭湯の更衣室を素足で歩かなければならないときは、
泥棒みたいにつま先立って、可能な限り接地面積を減らして歩く。
で、家に帰ってから足だけごしごし洗い直す。
恐怖症(phobie)というほどではないと思うけれど、
できればそういうものに関わらずに暮らしたいと思うものの1つなのだ。
それを言えば犬のフンだって天井からの水漏れだってそうなのだけれど、
なんだろう、抜け落ちた人の髪の毛には、
変な生々しさや、ちょっと変だけれど禍々しさがあるような気がして。
もはや命あるものとは繋がっていないのに、
いつまでも濃厚に生の気配を漂わせている、それが不気味なのかもしれない。
小学生の頃、学校の図書館から借りた本に、平安時代の話があった。
つばめが巣を作るために、どこかから長い長い女の髪を運んで来た。
それを見た公達が「この美しい長い髪を持つ女性を妻にしたい」と想い、
手を尽くしてその女性を捜させるのだ。
たしか、その髪の持ち主である姫君は恵まれない境遇にあるのだが、
髪が繋いだ縁で公達と幸せになる。
芸は身を助ける、もとい、髪は身を助ける。
この話を読んだときはよほど美しい髪だったのだなぁとしか思わなかったが、
今ならちょっと退いてしまうかもしれない。
人の髪がはさまっていたので、
読み始めるタイミングを逃してしまったモディアーノの本、
いい加減読み始めないと返却期限が来てしまう。
髪のことは記憶から消し去って(MIBの記憶消去装置があればなぁ)、
子どもの騒音にも負けず、モディアーノの世界に浸りたい。
そういえば、土曜日の図書館にはモディアーノは1冊も残っていなかった。
見越して2冊か3冊借りておくんだった。
図書館でパトリック・モディアーノの本を眺めた。
早い時間に行ったからかもしれないが、まだずらりと本が並んでいた。
どれを読んでみようかなぁ。
たっぷり選択の余地がある中から、読み易そうな1冊を選んだ。
家に帰って、あらためて中味に目を走らせているときに、
ページの間に1本の髪の毛が挟まっていることに気がついた。
濃い栗色で、いまのわたしの髪よりもずっと長い。
触るのがいやで、本にはさんだままそっと移動し、
ゴミ袋の上で払い落とした。
わたしは落ちた髪の毛が嫌いなのだ。
ブラシに髪が残っているのもイヤだ。
洗面台やお風呂場に落ちている家族の髪にもいい気持ちはしないが、
それでも素手で拾って捨てることは出来る。
何よりもいやなのは知らない人の髪だ。
美容院で足下に落ちている髪はなぜか気にならない。
でも、更衣室の床に落ちている髪は気になる。
お風呂やプールの脱衣所の濡れた床に落ちている髪はもっと嫌いだ。
市民プールや銭湯の更衣室を素足で歩かなければならないときは、
泥棒みたいにつま先立って、可能な限り接地面積を減らして歩く。
で、家に帰ってから足だけごしごし洗い直す。
恐怖症(phobie)というほどではないと思うけれど、
できればそういうものに関わらずに暮らしたいと思うものの1つなのだ。
それを言えば犬のフンだって天井からの水漏れだってそうなのだけれど、
なんだろう、抜け落ちた人の髪の毛には、
変な生々しさや、ちょっと変だけれど禍々しさがあるような気がして。
もはや命あるものとは繋がっていないのに、
いつまでも濃厚に生の気配を漂わせている、それが不気味なのかもしれない。
小学生の頃、学校の図書館から借りた本に、平安時代の話があった。
つばめが巣を作るために、どこかから長い長い女の髪を運んで来た。
それを見た公達が「この美しい長い髪を持つ女性を妻にしたい」と想い、
手を尽くしてその女性を捜させるのだ。
たしか、その髪の持ち主である姫君は恵まれない境遇にあるのだが、
髪が繋いだ縁で公達と幸せになる。
芸は身を助ける、もとい、髪は身を助ける。
この話を読んだときはよほど美しい髪だったのだなぁとしか思わなかったが、
今ならちょっと退いてしまうかもしれない。
人の髪がはさまっていたので、
読み始めるタイミングを逃してしまったモディアーノの本、
いい加減読み始めないと返却期限が来てしまう。
髪のことは記憶から消し去って(MIBの記憶消去装置があればなぁ)、
子どもの騒音にも負けず、モディアーノの世界に浸りたい。
そういえば、土曜日の図書館にはモディアーノは1冊も残っていなかった。
見越して2冊か3冊借りておくんだった。
by poirier_AAA
| 2014-10-21 20:46
| 日々の断片
|
Comments(8)
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ayusham at 2014-10-21 21:40
数年前、ヴェネツィアのビエンナーレアートで、人毛のセーターやカーペット、その製作過程を紹介した人毛の山の部屋がありました。梨の木さんは気絶したでしょうね。
猫と遠く遠く離れている時に、自分の衣服に猫の毛を発見すると愛おしいですよ。
猫と遠く遠く離れている時に、自分の衣服に猫の毛を発見すると愛おしいですよ。
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saheizi-inokori at 2014-10-22 11:14
小林秀雄は師である辰野隆の蔵書をよく借りていったそうですが、本を読みながら髪や頭をかきむしる癖があったので返却された本には小林の払い残した髪の毛、フケがはさまっていた。
辰野は返してもらった本を窓のところでぱらぱらやるのですが、汚れていないと「読まなかったな」といったと秀雄が何かに書いた。
それにたいして辰野が、「そんなお世辞を使った覚えはないよ、貸した本にアンダーラインを引こうがインキのシミを作ろうが一向に構わんが、ページごとの頭の毛とフケだけはきれいにして返してくれ、僕はきれい好きでは無論ないが、きたない好きでは更々ない。」と秀雄の『続文藝評論』を読んだ感想に書いてます。
辰野は返してもらった本を窓のところでぱらぱらやるのですが、汚れていないと「読まなかったな」といったと秀雄が何かに書いた。
それにたいして辰野が、「そんなお世辞を使った覚えはないよ、貸した本にアンダーラインを引こうがインキのシミを作ろうが一向に構わんが、ページごとの頭の毛とフケだけはきれいにして返してくれ、僕はきれい好きでは無論ないが、きたない好きでは更々ない。」と秀雄の『続文藝評論』を読んだ感想に書いてます。
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poirier_AAA at 2014-10-22 15:56
>ayushamさん、こんにちは。
それは、、、、、、、、、、ちょっと想像したくない風景ですね。わたしにとっては毛虫ツボ(村上春樹の本に出て来た想像上の拷問方法)と同格の悪夢です。
こういうわたしでも、出張で夫が数日家を空けている時なんか、枕についた髪の毛を愛しく感じることがありますよ。夫は猫じゃないですけど。
我が家の水漏れですが、上の階の水道管修理が済んで3日後、ようやく全部の水が落ちきったみたいで天井から水滴が落ちなくなりました。ayushaさんのところの水漏れは如何ですか?
それは、、、、、、、、、、ちょっと想像したくない風景ですね。わたしにとっては毛虫ツボ(村上春樹の本に出て来た想像上の拷問方法)と同格の悪夢です。
こういうわたしでも、出張で夫が数日家を空けている時なんか、枕についた髪の毛を愛しく感じることがありますよ。夫は猫じゃないですけど。
我が家の水漏れですが、上の階の水道管修理が済んで3日後、ようやく全部の水が落ちきったみたいで天井から水滴が落ちなくなりました。ayushaさんのところの水漏れは如何ですか?
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poirier_AAA at 2014-10-22 16:02
>saheiziさん、こんにちは。
あれからまた考えてみたのですが、たぶん髪の持ち主が特定できると印象が変わるのです。特定できると、そんなに気持ち悪くない。でも、これが特定できないと10倍くらい気持ち悪く感じるのですね。
しかし、辰野隆は太っ腹というか、すごいですね。わたしは貸した本にアンダーラインが引かれていたら、もうその人には本を貸したくなくなりますけれど、それは構わないんですね。。。。
世の中にはいろんな人がいるものだなぁ。
あれからまた考えてみたのですが、たぶん髪の持ち主が特定できると印象が変わるのです。特定できると、そんなに気持ち悪くない。でも、これが特定できないと10倍くらい気持ち悪く感じるのですね。
しかし、辰野隆は太っ腹というか、すごいですね。わたしは貸した本にアンダーラインが引かれていたら、もうその人には本を貸したくなくなりますけれど、それは構わないんですね。。。。
世の中にはいろんな人がいるものだなぁ。
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fusk
at 2014-10-22 19:22
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saheizi-inokori at 2014-10-22 21:18
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poirier_AAA at 2014-10-23 17:17
>fuskさん、こんにちは。
アンダーラインはイヤですよねぇ。あと書き込みとか。1ページだけ破り盗ってあるとか、お菓子やパンの屑が挟まっているのもげんなりします。‥‥と、こうしてまたイヤなものの話になってしまうという(笑)。
帯はわたしも要りません。帯に書かれている宣伝文句って、ほんとに中味を読んでいるのかと思うようなヘンテコリンな文が多いですし。
本の日焼け(経年ヤケ)はある意味仕方ないかと。読んでる方だって日々老化しているのだもの。。。。
アンダーラインはイヤですよねぇ。あと書き込みとか。1ページだけ破り盗ってあるとか、お菓子やパンの屑が挟まっているのもげんなりします。‥‥と、こうしてまたイヤなものの話になってしまうという(笑)。
帯はわたしも要りません。帯に書かれている宣伝文句って、ほんとに中味を読んでいるのかと思うようなヘンテコリンな文が多いですし。
本の日焼け(経年ヤケ)はある意味仕方ないかと。読んでる方だって日々老化しているのだもの。。。。
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poirier_AAA at 2014-10-23 17:39
>saheiziさん、こんにちは。
教え子の顔ぶれを見ただけため息がでます。
ちょっと前に紹介した水林章氏は若い頃に森有正の本に影響を受けたと書いていました。その森有正の先生がこの人なのですね。
師が師なら教え子も教え子で、この時代の東大仏文科の自由闊達な雰囲気が偲ばれます。
教え子の顔ぶれを見ただけため息がでます。
ちょっと前に紹介した水林章氏は若い頃に森有正の本に影響を受けたと書いていました。その森有正の先生がこの人なのですね。
師が師なら教え子も教え子で、この時代の東大仏文科の自由闊達な雰囲気が偲ばれます。