2013年 01月 09日
お茶を淹れる |
夕食が終わってから、夫と2人でお茶を飲む。
夕食の後片付けがだいたい終わる頃になったら、やかんでお湯を沸かす。
我が家にはいま、日本茶を含めたたくさんのティーバッグがあるので、
その中からその日の気分にあったお茶を選んで、マグカップで直接用意する。
先日いただいた煎茶のティーバッグの袋を破ろうとしたとき、
お湯の温度についての注意書きが目に入って、
そうだ、ティーバッグといえど煎茶に熱湯は厳禁だと思い出した。
煎茶は、それが良いお茶であればあるほど、お湯を冷ますのが肝心と習った。
お湯の温度が高すぎると、色も悪くなるし渋みが出る。
適度に冷ましたお湯を使うと、色鮮やかでまろやかな味が出る。
伯父さんほど美味しくお茶を淹れられる人はいない、
それが祖母の口癖だった。
祖母の兄にあたるその人は、田舎の百姓家には似合わないほどの風流人で、
別に骨董品を集めるとか贅を尽くすというのではなく、
どんなところにも楽しみを求め、生活の質を豊かにすることに熱心な人だった。
現役を引退した伯父さんは、昔のお年寄りがみなそうだったように、
こたつの番をしていることが多かったと思う。
お客が来ると、さぁさぁどうぞと家の中に招き入れて、お茶を用意する。
その間に女性は台所に立ってお菓子や漬け物などを用意する。
普通はささっとお茶が出でくるものだけれど、
伯父さんのところはなかなか出ないのよ。
いつになったら出てくるんだろうとこちらが思うようになった頃に
ようやく急須から茶碗に注ぎ分けてくれる。
そのお茶が美味しくてねぇ。
伯父さんはゆっくりと世間話をしながらお茶の用意をするそうだ。
今のように、指定温度に保温してくれるようなポットはない時代。
魔法瓶(!)にあるお湯を、
まずは急須にいれて、それから急須から茶碗に注ぎ分ける。
それからしゃべる。
ゆっくりしゃべる。
それから急須に茶葉を入れて、
それぞれの茶碗にあるお湯を急須にもどす。
それから、また会話にもどる。
あれやこれやとしゃべる。
そういえば、と話はどんどん展開して行く。
テーブルの上には、さっきからもう漬け物もお菓子も揃っている、
そんな頃になってようやく、伯父さんはお茶を注ぐ。
ゆっくり冷まし、ゆっくり淹れたお茶は、それはそれは甘露だったそうだ。
別にスペシャル茶葉を選んで使っているわけじゃないのに、と祖母は言ったものだ。
その風流な伯父さんも、いきいきした祖母も、
2人とももう鬼籍に入ってしまった。
でも、2人がいなくなって何年も経った今、
住む国も生活環境も全然違う孫が、彼らのことを思い出しながら、
台所でつったってお茶を淹れている。
ここは水が違うせいもあるだろう。
茶葉が古くなっているせいもあるだろう。
でも、日本で飲んだ煎茶は美味しかったなぁと思い出す。
味と香りと、それから話してくれた人の声音の記憶。
夕食の後片付けがだいたい終わる頃になったら、やかんでお湯を沸かす。
我が家にはいま、日本茶を含めたたくさんのティーバッグがあるので、
その中からその日の気分にあったお茶を選んで、マグカップで直接用意する。
先日いただいた煎茶のティーバッグの袋を破ろうとしたとき、
お湯の温度についての注意書きが目に入って、
そうだ、ティーバッグといえど煎茶に熱湯は厳禁だと思い出した。
煎茶は、それが良いお茶であればあるほど、お湯を冷ますのが肝心と習った。
お湯の温度が高すぎると、色も悪くなるし渋みが出る。
適度に冷ましたお湯を使うと、色鮮やかでまろやかな味が出る。
伯父さんほど美味しくお茶を淹れられる人はいない、
それが祖母の口癖だった。
祖母の兄にあたるその人は、田舎の百姓家には似合わないほどの風流人で、
別に骨董品を集めるとか贅を尽くすというのではなく、
どんなところにも楽しみを求め、生活の質を豊かにすることに熱心な人だった。
現役を引退した伯父さんは、昔のお年寄りがみなそうだったように、
こたつの番をしていることが多かったと思う。
お客が来ると、さぁさぁどうぞと家の中に招き入れて、お茶を用意する。
その間に女性は台所に立ってお菓子や漬け物などを用意する。
普通はささっとお茶が出でくるものだけれど、
伯父さんのところはなかなか出ないのよ。
いつになったら出てくるんだろうとこちらが思うようになった頃に
ようやく急須から茶碗に注ぎ分けてくれる。
そのお茶が美味しくてねぇ。
伯父さんはゆっくりと世間話をしながらお茶の用意をするそうだ。
今のように、指定温度に保温してくれるようなポットはない時代。
魔法瓶(!)にあるお湯を、
まずは急須にいれて、それから急須から茶碗に注ぎ分ける。
それからしゃべる。
ゆっくりしゃべる。
それから急須に茶葉を入れて、
それぞれの茶碗にあるお湯を急須にもどす。
それから、また会話にもどる。
あれやこれやとしゃべる。
そういえば、と話はどんどん展開して行く。
テーブルの上には、さっきからもう漬け物もお菓子も揃っている、
そんな頃になってようやく、伯父さんはお茶を注ぐ。
ゆっくり冷まし、ゆっくり淹れたお茶は、それはそれは甘露だったそうだ。
別にスペシャル茶葉を選んで使っているわけじゃないのに、と祖母は言ったものだ。
その風流な伯父さんも、いきいきした祖母も、
2人とももう鬼籍に入ってしまった。
でも、2人がいなくなって何年も経った今、
住む国も生活環境も全然違う孫が、彼らのことを思い出しながら、
台所でつったってお茶を淹れている。
ここは水が違うせいもあるだろう。
茶葉が古くなっているせいもあるだろう。
でも、日本で飲んだ煎茶は美味しかったなぁと思い出す。
味と香りと、それから話してくれた人の声音の記憶。
by poirier_AAA
| 2013-01-09 19:16
| 味わう
|
Comments(8)
あぁ~いいねぇ。
私もその伯父さんみたいでありたいなぁ、
お茶を煎れるじゃなくて美味しいお茶を煎れるって感じにさ。
先日届いた中に1冊の料理本があってね、前書きをじっくり
読んでたら“お腹が空いたから何かを作る、ではなく食べたい物
を作るって思ってほしい”と作者の想いが。
そうやって物にも、他人にも、自分にも丁寧であれる生活を
送りたいですねぇ。
せかせかするのは簡単だけれどじっくりと物事と付き合うのは
慣れないうちは大変ですよね。。。ま、私の事なんですが。
私もその伯父さんみたいでありたいなぁ、
お茶を煎れるじゃなくて美味しいお茶を煎れるって感じにさ。
先日届いた中に1冊の料理本があってね、前書きをじっくり
読んでたら“お腹が空いたから何かを作る、ではなく食べたい物
を作るって思ってほしい”と作者の想いが。
そうやって物にも、他人にも、自分にも丁寧であれる生活を
送りたいですねぇ。
せかせかするのは簡単だけれどじっくりと物事と付き合うのは
慣れないうちは大変ですよね。。。ま、私の事なんですが。
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Mtonosama at 2013-01-10 07:07
早起きの私の毎朝の日課はチベットの仏様の前にお灯明とお茶を
お供えすることから始まります。
鉄瓶で沸かしたお湯を仏様と私用のお湯呑に入れて少し冷ましてか
ら、茶葉の入った急須に注ぎます。まずは仏様に備えて般若心経を
唱え、お参りします。これって5年前に亡くなった父がやっていた
のと同じ。
いつもいがみあってる父娘だったけど、ヘンなところで似てしまっ
たなぁと思います。
お湯の温度には気をつかっているけれど、おいしいのは最初だけ(-_-;)
やはり二番煎じはおいしくないのでしょうか。
お供えすることから始まります。
鉄瓶で沸かしたお湯を仏様と私用のお湯呑に入れて少し冷ましてか
ら、茶葉の入った急須に注ぎます。まずは仏様に備えて般若心経を
唱え、お参りします。これって5年前に亡くなった父がやっていた
のと同じ。
いつもいがみあってる父娘だったけど、ヘンなところで似てしまっ
たなぁと思います。
お湯の温度には気をつかっているけれど、おいしいのは最初だけ(-_-;)
やはり二番煎じはおいしくないのでしょうか。
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fusk
at 2013-01-10 09:44
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saheizi-inokori at 2013-01-10 09:59
お茶を淹れるということはそういうこと、過ぎ去った人やことを思い出すことかもしれないですね。
私もかつて支店長みたいなことをやっていたとき来客に自分でお茶を淹れてサービスしました。
その行為でいろいろ話ができるのが楽しかったのです。
現場の人などは緊張が溶けて本音が出たような気もします。
私もかつて支店長みたいなことをやっていたとき来客に自分でお茶を淹れてサービスしました。
その行為でいろいろ話ができるのが楽しかったのです。
現場の人などは緊張が溶けて本音が出たような気もします。
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poirier_AAA at 2013-01-10 16:59
>cocoさん、こんにちは。
わたしはザツに暮らしてますよ。ちょっと恥ずかしいくらい。子どもに「おなか空いた」と言われれば待った無しだからということもあるけれど、何とかとりあえず体裁を整えるという泥縄式、やっつけ仕事ばっかりで家事をやってます。だから、もうちょっとまともに、という年始の抱負につながるわけで。。。。
こういうことも、気持ちの余裕と心がけ、それから習慣がものをいうのかもしれませんね。
わたしはザツに暮らしてますよ。ちょっと恥ずかしいくらい。子どもに「おなか空いた」と言われれば待った無しだからということもあるけれど、何とかとりあえず体裁を整えるという泥縄式、やっつけ仕事ばっかりで家事をやってます。だから、もうちょっとまともに、という年始の抱負につながるわけで。。。。
こういうことも、気持ちの余裕と心がけ、それから習慣がものをいうのかもしれませんね。
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poirier_AAA at 2013-01-10 17:06
>mtonosamaさん、こんにちは。
とのさんの朝の儀式ですね。そういう習慣があると、朝からきちっと背筋が伸びそうです。
そういえば、実家も毎朝一番最初に入れたお茶を仏様にお供えして朝のお参りをしていました。一番最初の、一番美味しいお茶をお供えするんですよね。ゆっくりじっくり入れたお茶は、やっぱり最初に良い部分が全部出てしまうような気がします。ニ番茶も三番茶も四番茶も飲みますけど(日本に帰ると何杯もおかわりしてしまいます)、そこそこいけますけど、う〜ん美味しい!という感動は一杯目です、やっぱり。
とのさんの朝の儀式ですね。そういう習慣があると、朝からきちっと背筋が伸びそうです。
そういえば、実家も毎朝一番最初に入れたお茶を仏様にお供えして朝のお参りをしていました。一番最初の、一番美味しいお茶をお供えするんですよね。ゆっくりじっくり入れたお茶は、やっぱり最初に良い部分が全部出てしまうような気がします。ニ番茶も三番茶も四番茶も飲みますけど(日本に帰ると何杯もおかわりしてしまいます)、そこそこいけますけど、う〜ん美味しい!という感動は一杯目です、やっぱり。
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poirier_AAA at 2013-01-10 17:12
>fuskさん、こんにちは。
伯父さんのお茶の入れ方が正しい作法にのっとったものか、わたしには判断がつかないのですけれど、でも、美味しいお茶を飲みたいという気持ちがさせた仕事なんでしょうね。生活を楽しむことを知っていたんだと思います。
無骨な人の多い親戚中で、あの伯父さんだけはいつも全然違う色を放っていました。伯父さんから貰った本は、小学生時代から今に至るまでずっと大事にしているんですよ。
伯父さんのお茶の入れ方が正しい作法にのっとったものか、わたしには判断がつかないのですけれど、でも、美味しいお茶を飲みたいという気持ちがさせた仕事なんでしょうね。生活を楽しむことを知っていたんだと思います。
無骨な人の多い親戚中で、あの伯父さんだけはいつも全然違う色を放っていました。伯父さんから貰った本は、小学生時代から今に至るまでずっと大事にしているんですよ。
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poirier_AAA at 2013-01-10 17:27
>saheiziさん、こんにちは。
ご自身でお茶を淹れていらしたんですか。それは素晴らしい!
そういう上司には、部下も一目置くと思います。
たかがお茶ではありますが、お茶を淹れて出すって人間対人間のつきあいをすることなんですよね。心が入らないまま義理で出されたお茶、心を入れて用意しても受け取ってもらえないお茶は、本当に味気ないものだと思いました。
>過ぎ去った人やことを思い出すことかもしれないですね
「めぐりあう朝」という映画をご存知でしょうか。佐平次さんのこの部分を読んで、この作品のことを思い浮かべました。
ご自身でお茶を淹れていらしたんですか。それは素晴らしい!
そういう上司には、部下も一目置くと思います。
たかがお茶ではありますが、お茶を淹れて出すって人間対人間のつきあいをすることなんですよね。心が入らないまま義理で出されたお茶、心を入れて用意しても受け取ってもらえないお茶は、本当に味気ないものだと思いました。
>過ぎ去った人やことを思い出すことかもしれないですね
「めぐりあう朝」という映画をご存知でしょうか。佐平次さんのこの部分を読んで、この作品のことを思い浮かべました。