2012年 03月 27日
アントニオ・タブッキのこと |
アントニオ・タブッキが亡くなった。享年68歳。
3月25日、我が家では日曜日の宴会がひらかれ、リスボンではタブッキが逝った。
タブッキの作品は、ほとんど知らない。
読んだ本は「供述によるとペレイラは」一冊だけ。
あとは「インド夜想曲」を映画で観ただけだ。
それなのに、この作家のことはずっとずっと気になっていた。
いつか集中して読んでみなければ、と思っていた。
わたしにとっては素通りできない要素をたくさん持つ作家だったからだ。
タブッキを日本語に訳したのは、先頃心酔した須賀敦子さんだった。
あの須賀さんが訳したいと思った作家なら、きっと何かがある。
タブッキはまた、ポルトガルを愛した作家だった。
愛しただけではなく、実際にポルトガル語を習得し、ポルトガルに住み、ポルトガル人を伴侶にし、ポルトガル語でも本を書いた人だった。いつか習おうと思って本だけ買って積んであるわたしとは情熱の傾け方が全然違う(そこで比べるのがそもそもの間違い)。ポルトガル語ができるようになれば、タブッキが書いた原文を読むことができる。それはなかなか魅力的な動機になりそうだ。
そしてまた、母語とは別な世界を得て狭間で活動し続けたという点では、先頃記事にもした多和田葉子さんに通じるところもある。
なんだか呼ばれているような気がする、そんな作家。
それはそれとして、タブッキの代表作「供述によるとペレイラは」は、個人的にちょっと特別な本なり。フランス語を習ってはいたけれど実はほとんど原書を読むことのなかったわたしを、夫が「大丈夫だよ、絶対に読めるよ」とせっせとおだてて終には最後まで読み通させてしまったという、わたしのフランス語歴の記念すべき「初めての完読本」群の1冊なのだ。他にはアゴタ・クリストフの「悪童日記」の三部作もある。こうしてみると偶然選んだ作品なのに共通項がある。数年来掻き立てられている欧州史への興味の種は、実はあの頃に植え付けられていたとみえる。
訃報を受け、昨夜は懐かしの「Pereira prétend」を読み返す。
ううむ、あの頃は半分くらい想像で読んでいたに違いない。
今は淡々とした文章がスルスルと頭に入ってくる。読みやすい文章だと思う。
そのくせ、ひたひたと足下に忍び寄ってくる怖さもある。
タブッキの目を通したポルトガルをもっと見てみたい、と思った。
3月25日、我が家では日曜日の宴会がひらかれ、リスボンではタブッキが逝った。
タブッキの作品は、ほとんど知らない。
読んだ本は「供述によるとペレイラは」一冊だけ。
あとは「インド夜想曲」を映画で観ただけだ。
それなのに、この作家のことはずっとずっと気になっていた。
いつか集中して読んでみなければ、と思っていた。
わたしにとっては素通りできない要素をたくさん持つ作家だったからだ。
タブッキを日本語に訳したのは、先頃心酔した須賀敦子さんだった。
あの須賀さんが訳したいと思った作家なら、きっと何かがある。
タブッキはまた、ポルトガルを愛した作家だった。
愛しただけではなく、実際にポルトガル語を習得し、ポルトガルに住み、ポルトガル人を伴侶にし、ポルトガル語でも本を書いた人だった。いつか習おうと思って本だけ買って積んであるわたしとは情熱の傾け方が全然違う(そこで比べるのがそもそもの間違い)。ポルトガル語ができるようになれば、タブッキが書いた原文を読むことができる。それはなかなか魅力的な動機になりそうだ。
そしてまた、母語とは別な世界を得て狭間で活動し続けたという点では、先頃記事にもした多和田葉子さんに通じるところもある。
なんだか呼ばれているような気がする、そんな作家。
それはそれとして、タブッキの代表作「供述によるとペレイラは」は、個人的にちょっと特別な本なり。フランス語を習ってはいたけれど実はほとんど原書を読むことのなかったわたしを、夫が「大丈夫だよ、絶対に読めるよ」とせっせとおだてて終には最後まで読み通させてしまったという、わたしのフランス語歴の記念すべき「初めての完読本」群の1冊なのだ。他にはアゴタ・クリストフの「悪童日記」の三部作もある。こうしてみると偶然選んだ作品なのに共通項がある。数年来掻き立てられている欧州史への興味の種は、実はあの頃に植え付けられていたとみえる。
訃報を受け、昨夜は懐かしの「Pereira prétend」を読み返す。
ううむ、あの頃は半分くらい想像で読んでいたに違いない。
今は淡々とした文章がスルスルと頭に入ってくる。読みやすい文章だと思う。
そのくせ、ひたひたと足下に忍び寄ってくる怖さもある。
タブッキの目を通したポルトガルをもっと見てみたい、と思った。
by poirier_AAA
| 2012-03-27 16:50
| この人あり
|
Comments(6)
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saheizi-inokori at 2012-03-27 21:01
「インド夜想曲」は読みました。
なんだかわけのわからない感想を書いていますが魅力的な小説だったことは事実です。
原文で読めたらどんなにいいか!
なんだかわけのわからない感想を書いていますが魅力的な小説だったことは事実です。
原文で読めたらどんなにいいか!
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poirier_AAA at 2012-03-27 22:27
>saheiziさん、こんにちは。
ほんとうに、原文でどっぷりとあの世界に浸ることができたらいいなぁと思います。
でも、訳者が須賀敦子ですから。彼女の語感を通して読めるというのもまた翻訳本ならではの贅沢だと思います。一番酷いのが、できない外国語でよろよろと読むわたしのようなケースかと。。。
ほんとうに、原文でどっぷりとあの世界に浸ることができたらいいなぁと思います。
でも、訳者が須賀敦子ですから。彼女の語感を通して読めるというのもまた翻訳本ならではの贅沢だと思います。一番酷いのが、できない外国語でよろよろと読むわたしのようなケースかと。。。
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らうとら
at 2012-03-28 03:05
x
私も須賀敦子さんを通じてタブッキを知りました。また楽に本が読めるようになったら、本棚にある「インド夜想曲」を読み返したいです。もちろん須賀さんご自身の本も。
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Mtonosama at 2012-03-28 06:52
タブツキ、知りませんでした。
読んでみたいです。「三国志」が片付いたらですけど^_^;
読んでみたいです。「三国志」が片付いたらですけど^_^;
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poirier_AAA at 2012-03-28 19:48
>らうとらさん、こんにちは。
「インド夜想曲」、わたしは映画しか観ていないので本も読んでみようと思っています。
早く目が楽になると良いですね。フランスもやっぱり予約から診察までの時間がかかります。何ヶ月と待った経験はまだありませんが、普通で2,3日から1週間後くらいでしょうか。緊急性が低い時はいいのですが、歯が痛いとか子どもの様子が変だとかいう時には焦ります。特に夏のバカンスシーズンの2ヶ月とクリスマス前がいけません。早め早めに予防しておくのが一番良いのでしょうが、なにしろ医者が嫌いで‥‥。定期検診を習慣にしないといけないなぁと思っているところです。
「インド夜想曲」、わたしは映画しか観ていないので本も読んでみようと思っています。
早く目が楽になると良いですね。フランスもやっぱり予約から診察までの時間がかかります。何ヶ月と待った経験はまだありませんが、普通で2,3日から1週間後くらいでしょうか。緊急性が低い時はいいのですが、歯が痛いとか子どもの様子が変だとかいう時には焦ります。特に夏のバカンスシーズンの2ヶ月とクリスマス前がいけません。早め早めに予防しておくのが一番良いのでしょうが、なにしろ医者が嫌いで‥‥。定期検診を習慣にしないといけないなぁと思っているところです。
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poirier_AAA at 2012-03-28 19:58
>mtonosamaさん、こんにちは。
「三国志」を読んでいらっしゃるんですか?熱くて真剣で血なまぐさくてがっちりした世界ですよね。あの漢字がみっしり詰まった頁の感じが大好きです。
でも、「三国志」の直後に「インド夜想曲」に行ったら、あまりの世界の違いにクラっと来そうな気がします。ええっ、昨日までは右側通行だったじゃない、なんで今日から左側通行になっちゃったの?というような感じかもしれませんよね。
「三国志」を読んでいらっしゃるんですか?熱くて真剣で血なまぐさくてがっちりした世界ですよね。あの漢字がみっしり詰まった頁の感じが大好きです。
でも、「三国志」の直後に「インド夜想曲」に行ったら、あまりの世界の違いにクラっと来そうな気がします。ええっ、昨日までは右側通行だったじゃない、なんで今日から左側通行になっちゃったの?というような感じかもしれませんよね。