2011年 11月 02日
二十四の瞳 |
1954年の日本映画。図書館から借りて来ました。
なんだか苦手なような気がして、ずっと本も映画も避けて来たのですが、猛烈に後悔しました。実に日本的で、にも拘らず国籍を超えた普遍性もあって、すばらしい作品です。
原作は壷井栄。有名な作品ですから、映画は観ていなくても話は知っているという人も多いでしょう。
1928年、小豆島の岬の小学校に新しい先生が赴任してきます。
学校を出たばかりの大石先生。洋装で颯爽と自転車に乗り、子どもと一緒になって歌い、遊んでくれる若い大石先生に、子どもたちはたちまちなつきます。
あの山も
この海も
きのうに続く
きょうであった
そんな穏やかな島の生活に、少しずつ時代の波が押し寄せてきます。
実家の経済状態が悪くなり、学校に来られなくなる者、卒業するや奉公に出される者も出ます。勉強を続けたくても続けられない子がたくさんいます。そして、本当は他にやりたいことがあるのに、家業や親の意向に逆らえずに泣く子もいます。
男の子たちの中には、軍人になりたいという子が現れます。
島で魚を捕ったり、コメを作ったりするよりも、兵隊さんになってお国のために戦う方がずっといいという少年たちの言葉に、大石先生は
本当にそうなん?よく考えてみるのよ。
兵隊さんは嫌いじゃないけれど、兵隊さんじゃない方が好きだわ。
そんな先生の正直な言葉に、学校側は敏感に反応します。
先生、先生がアカだという噂がたっています。
こんなときに「死んだらあかん」などとは言わないで下さい。
どうも先生は正直すぎて危なくていかん。
そう思っていても、そこはこう、まるくまるく、なるべく当たり障りのないことを言って下さいよ。
それが教師としてのあるべき姿なのか?
大石先生は、受け持ちの子どもたちの卒業と同時に教壇を辞すことを決意します。
やがて戦争が始まります。
若い青年たちが、次々と出征して行きます。
大石先生の夫も出征します。
終わってみれば、徒に人を失っただけの戦争でした。
玉音放送のあった日、
悔しくって泣けた。お母さんは悔しくないのか?
と問う長男の言葉に、大石先生はこう答えます。
わたしは、死んだ人が可哀想で泣いた。
戦争で夫を亡くし、女手一つで息子2人を育てなければならなくなった大石先生は、もう一度、教師として働くことにします。久しぶりの岬の小学校での初日。出欠をとる先生は、昔の教え子たちの子どもたちに気がつき、子どもたちの前で泣き出してしまいます。
二十四の瞳、というタイトルの通り、子どもたちの姿が印象的でした。
まっすぐで、素直ないい目をした子ばかりです。着物に兵児帯、足下は草履という姿で、転げるように先生に向かって駆け出す子どもたち。先生が大好きで、怪我をして休んでいる先生を訪ねて8キロの道を歩き続ける子どもたち。途中でお腹がすき、おまけにだんだん心細くなって、最後は泣きながら歩き続ける子どもたち。涙を浮かべながら「仰げば尊し」を歌う、卒業式の子どもたち。
時代の荒波は容赦なく襲いかかります。そして、往々にして、犠牲者は最も若い少年少女であり、青年や娘です。この映画を観て今更のように思ったのは、子どもを泣かせではいけない、子どもの素直さを利用してはいけない、ということでした。
「アカ」だとして警察に目を付けられている本のことを、あれがどうして?素晴らしい綴り方だと思ったから授業でも使いました、と言ってのける大石先生。子どもたちに命を惜しめということが、どうして「アカ」なんでしょうか?と真っ向から問う大石先生。そんな先生の姿は、エッセイから垣間見える高峰秀子という女性の、竹を割ったような清々しさと重なるような気がしました。
そして、最後に。
日本の歌って素晴らしいと感じ入りました。
詞もメロディもこんなに美しい歌があることは、国の誇りだと思います。
二十四の瞳
監督:木下恵介(1954)
なんだか苦手なような気がして、ずっと本も映画も避けて来たのですが、猛烈に後悔しました。実に日本的で、にも拘らず国籍を超えた普遍性もあって、すばらしい作品です。
原作は壷井栄。有名な作品ですから、映画は観ていなくても話は知っているという人も多いでしょう。
1928年、小豆島の岬の小学校に新しい先生が赴任してきます。
学校を出たばかりの大石先生。洋装で颯爽と自転車に乗り、子どもと一緒になって歌い、遊んでくれる若い大石先生に、子どもたちはたちまちなつきます。
あの山も
この海も
きのうに続く
きょうであった
そんな穏やかな島の生活に、少しずつ時代の波が押し寄せてきます。
実家の経済状態が悪くなり、学校に来られなくなる者、卒業するや奉公に出される者も出ます。勉強を続けたくても続けられない子がたくさんいます。そして、本当は他にやりたいことがあるのに、家業や親の意向に逆らえずに泣く子もいます。
男の子たちの中には、軍人になりたいという子が現れます。
島で魚を捕ったり、コメを作ったりするよりも、兵隊さんになってお国のために戦う方がずっといいという少年たちの言葉に、大石先生は
本当にそうなん?よく考えてみるのよ。
兵隊さんは嫌いじゃないけれど、兵隊さんじゃない方が好きだわ。
そんな先生の正直な言葉に、学校側は敏感に反応します。
先生、先生がアカだという噂がたっています。
こんなときに「死んだらあかん」などとは言わないで下さい。
どうも先生は正直すぎて危なくていかん。
そう思っていても、そこはこう、まるくまるく、なるべく当たり障りのないことを言って下さいよ。
それが教師としてのあるべき姿なのか?
大石先生は、受け持ちの子どもたちの卒業と同時に教壇を辞すことを決意します。
やがて戦争が始まります。
若い青年たちが、次々と出征して行きます。
大石先生の夫も出征します。
終わってみれば、徒に人を失っただけの戦争でした。
玉音放送のあった日、
悔しくって泣けた。お母さんは悔しくないのか?
と問う長男の言葉に、大石先生はこう答えます。
わたしは、死んだ人が可哀想で泣いた。
戦争で夫を亡くし、女手一つで息子2人を育てなければならなくなった大石先生は、もう一度、教師として働くことにします。久しぶりの岬の小学校での初日。出欠をとる先生は、昔の教え子たちの子どもたちに気がつき、子どもたちの前で泣き出してしまいます。
二十四の瞳、というタイトルの通り、子どもたちの姿が印象的でした。
まっすぐで、素直ないい目をした子ばかりです。着物に兵児帯、足下は草履という姿で、転げるように先生に向かって駆け出す子どもたち。先生が大好きで、怪我をして休んでいる先生を訪ねて8キロの道を歩き続ける子どもたち。途中でお腹がすき、おまけにだんだん心細くなって、最後は泣きながら歩き続ける子どもたち。涙を浮かべながら「仰げば尊し」を歌う、卒業式の子どもたち。
時代の荒波は容赦なく襲いかかります。そして、往々にして、犠牲者は最も若い少年少女であり、青年や娘です。この映画を観て今更のように思ったのは、子どもを泣かせではいけない、子どもの素直さを利用してはいけない、ということでした。
「アカ」だとして警察に目を付けられている本のことを、あれがどうして?素晴らしい綴り方だと思ったから授業でも使いました、と言ってのける大石先生。子どもたちに命を惜しめということが、どうして「アカ」なんでしょうか?と真っ向から問う大石先生。そんな先生の姿は、エッセイから垣間見える高峰秀子という女性の、竹を割ったような清々しさと重なるような気がしました。
そして、最後に。
日本の歌って素晴らしいと感じ入りました。
詞もメロディもこんなに美しい歌があることは、国の誇りだと思います。
二十四の瞳
監督:木下恵介(1954)
by poirier_AAA
| 2011-11-02 20:20
| 観る・鑑賞する
|
Comments(6)
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saheizi-inokori at 2011-11-02 21:23
子供の頃にみた映画で少しでも覚えているのはこの映画とすこししかありません。
でもその覚え方と言ったら、、。
もう一度みないといかんなあ。
でもその覚え方と言ったら、、。
もう一度みないといかんなあ。
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poirier_AAA at 2011-11-02 21:43
>saheiziさん、こんにちは。
とても良かったです。子どもの頃に観るのと大人になってから観るのでは受ける印象も全然違うと思うので、是非もう一度ご覧になって頂きたいです。
余計なお世話ですが、ティッシュ必需ですよ〜。
我が家は夫婦揃って盛大に涙しました。
とても良かったです。子どもの頃に観るのと大人になってから観るのでは受ける印象も全然違うと思うので、是非もう一度ご覧になって頂きたいです。
余計なお世話ですが、ティッシュ必需ですよ〜。
我が家は夫婦揃って盛大に涙しました。
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kanafr at 2011-11-03 06:42
この映画私もフランスに来てから見ました。
いい映画ですね。
人も子どもも凄くいい顔していました。
黒沢も小津もいいけど、木下恵介監督もいい監督さんですね。
何か体制とは違った事をしたり言ったりするとアカという時代とは違っていますが、ただアカという表現が他の物に変わっただけのような気がします。体制自体はホントに変わりませんもの。
いい映画ですね。
人も子どもも凄くいい顔していました。
黒沢も小津もいいけど、木下恵介監督もいい監督さんですね。
何か体制とは違った事をしたり言ったりするとアカという時代とは違っていますが、ただアカという表現が他の物に変わっただけのような気がします。体制自体はホントに変わりませんもの。
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mtonosama at 2011-11-03 10:06
小さい時に観たか、テレビで観たか、はっきり覚えてはいませんが、
結構何度も観ているとは思います。
でも、よく覚えていません^_^;
最近、高峰秀子の人生をまとめた本を人から借りて読みました。
こんなにきれいで溌剌と演技している高峰さんですが、
女優という仕事が嫌で嫌で仕方なかったんですって。
でも、幼いながら家族を養っていかねばならず、
大好きだった女学校もやめて、驚異的な仕事の量をこなしたのだそうです。
そういう彼女の人生を知った後で、もう一度この映像を観ると
またひときわ沁みてきます。
結構何度も観ているとは思います。
でも、よく覚えていません^_^;
最近、高峰秀子の人生をまとめた本を人から借りて読みました。
こんなにきれいで溌剌と演技している高峰さんですが、
女優という仕事が嫌で嫌で仕方なかったんですって。
でも、幼いながら家族を養っていかねばならず、
大好きだった女学校もやめて、驚異的な仕事の量をこなしたのだそうです。
そういう彼女の人生を知った後で、もう一度この映像を観ると
またひときわ沁みてきます。
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poirier_AAA at 2011-11-03 19:24
>kanafrさん、こんにちは。
このくらい古い日本映画って、フランスにいる方が観る機会が多くなるような気がしますよね。
日本人って、いい顔していたんだなぁと思いました。特に子どもが子どもらしい顔で、なんというんでしょうね、ほっとしたというか、そうそうこれが普通だよねと思ったりしたのです。
>ただアカという表現が他の物に変わっただけのような気がします
仰るとおりだと思います。始めは体制に迎合、やがてはそれが自己統制に姿を変えて行くのです。わたしはイヤ、別行動したいという主張が許されないのですよね。
このくらい古い日本映画って、フランスにいる方が観る機会が多くなるような気がしますよね。
日本人って、いい顔していたんだなぁと思いました。特に子どもが子どもらしい顔で、なんというんでしょうね、ほっとしたというか、そうそうこれが普通だよねと思ったりしたのです。
>ただアカという表現が他の物に変わっただけのような気がします
仰るとおりだと思います。始めは体制に迎合、やがてはそれが自己統制に姿を変えて行くのです。わたしはイヤ、別行動したいという主張が許されないのですよね。
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poirier_AAA at 2011-11-03 19:37
>mtonosamaさん、こんにちは。
このくらい古い日本映画って、わたしはほとんど観ていないんです。だから、今になって日本映画発見!という感じですね。面白くて興味が尽きません。
高峰秀子さんの本、わたしも何冊か読みました。
綺麗で女性らしい容姿の方なのに、文章から浮かび上がる姿は男っぽいと形容した方がぴったりきますよね。
綺麗綺麗とちやほやされるスターとしてではなく、自分の意志を持って大石先生役を演じたのだろうと思いました。
このくらい古い日本映画って、わたしはほとんど観ていないんです。だから、今になって日本映画発見!という感じですね。面白くて興味が尽きません。
高峰秀子さんの本、わたしも何冊か読みました。
綺麗で女性らしい容姿の方なのに、文章から浮かび上がる姿は男っぽいと形容した方がぴったりきますよね。
綺麗綺麗とちやほやされるスターとしてではなく、自分の意志を持って大石先生役を演じたのだろうと思いました。