2011年 09月 17日
「La grotte des rêves perdus」 |
洞窟壁画といえば、ラスコーとかアルタミラという名前がすぐに思い浮かびます。
ラスコーの壁画は、今から18000年から17000年前のものだと言われています。そのとてつもない大昔の、そのまたとてつもない大昔にあたる時代に描かれたと推定される壁画がフランスにあります。
それが、ショーヴェ洞窟(La grotte de Chauvet )の壁画です。
推定製作期は、今から32000年前だそうです。
今回観た映画は、このショーヴェ洞窟と壁画に関するドキュメンタリーでした。
タイトルを直訳すると「失われた夢の洞窟」。
(失われたのは夢の方で、洞窟ではありません)
洞窟は1994年に発見されました。フランスの地図ではずいぶん下の方になります。リヨン、アルルを通って地中海に注ぎ込むローヌ川を、地中海から逆に辿ってアヴィニョンよりもう少し北に行くと、アルデシュという川が注ぎ込む場所があります。洞窟は、このアルデシュ川沿いにあります。
川の蛇行に沿って続く白い岸壁、岩を覆う森の緑、そして川面の青と空の青。
絶景です。
しかし、学者たちは風光の明媚さではなくて岸壁に注目していました。洞窟の存在を疑っていたのです。岩の隙間から僅かに漏れ出る風に気づいたことが、この洞窟発見に繋がりました。
壁画が描かれた頃には外に向かって開いた入り口があったのですが、その後の地盤の動きで入り口が壊れたため、外界と接触を断った状態で時間だけが流れました。その結果、壁画はこれほどに古いものとしては信じられないほど、素晴らしい状態で保存されたのです。場所によっては、絵の上でうっすらと結晶化が始まっている部分もありました。
この壁画が、また素晴らしいのです。
ラスコーの壁画ほどの色使いは見られません。ほとんどが木炭。そしてところどころに残された手型の部分だけに赤色が使われています。(手型は全部1人のものだと推定されています)
ほとんどすべての絵は動物が素材です。ライオン、ウマ、サイなどが特に多く描かれている印象でした。線に迷いがなく、描き出された動物のプロフィールが驚くほど写実的だったのが強烈に印象に残りました。
発見当時の保存状態を保つため、洞窟は厳重に管理されています。わずかな研究者だけが、人数も時間も限った範囲で中に入ることができるようです。カメラもほとんど入っていないはず。洞窟内を傷つけないため、持ち込める撮影器具は限られます。照明も、腰に付けたバッテリーで動くノート程度の大きさのものしか使えません。おまけに歩いていい場所も決まっているので、自由に歩いたり、違う方向から撮影するという技も使えません。制限だらけの撮影です。
それでも、本当に貴重なものを見せてもらったと思いました。
撮影の途中で学者の1人が言います。
みなさん、ちょっと黙って。洞窟の音を聞いてみましょう。
わずかなヘッドライトだけに照らされた洞窟内は、奇妙な陰影に彩られた、恐ろしい美しさに満ちた場所でした。聞こえるのは、時折滴り落ちる水滴のこだま。人の息づかい。自分の心臓の音。眠っている動物的な感覚が呼び覚まされるような、奇妙な感覚を味わいます。
そうしてはっきりと悟ります。100年1000年ごとき時間の単位は、大地にとってはほとんど意味はないんだ。人間なんて、ほんの一瞬、大地に住まわせてもらっている種に過ぎない。
映画の最後には原子力発電所の姿が大映しになりました。
先ほども書きましたように、この洞窟があるのがローヌ川近くです。フランスでは原子力発電所は川沿いに作られるのです。ワインで有名なローヌ川沿いは、また原子力関連施設が立ち並ぶ原子力銀座でもあります。このショーヴェ洞窟の30キロ圏内にも原発があります。
洞窟は、自然がそのたゆみない動きで作り上げたもの。
壁画は、原始の人間が動物と自然と共存していたときのもの。
原発は、生物の1種が己の生活のためだけに生み出したもの。
太古の人の自然の認識とその再現に、人間という種の輝きを感じ、
原子力を利用できると考える驕りと独断に、笑っちゃうほどの危うさを感じ、
さて、3万年後にはこの地球はどうなっているんだろうと思いを馳せる
大きな時間の流れにどっぷり浸かったドキュメンタリーでした。
興味がある人には面白いと思います。(当然か)
でも、淡々としたドキュメンタリーなので、、、軽いいびきも聞こえました。
学術用語が満載で、わたしは自分がどのくらい理解できたのかよくわかりません。
<ご参考>
映画の予告編(フランス語)
映画の抜粋(英語)
ショーヴェ洞窟のサイト
(右下のvisite de la grotteをクリックすると洞窟内の様子が見られます)
ラスコーについて書いた過去記事
ラスコー洞窟のヴァーチャル・ツアーが楽しめるサイト
ラスコーの壁画は、今から18000年から17000年前のものだと言われています。そのとてつもない大昔の、そのまたとてつもない大昔にあたる時代に描かれたと推定される壁画がフランスにあります。
それが、ショーヴェ洞窟(La grotte de Chauvet )の壁画です。
推定製作期は、今から32000年前だそうです。
今回観た映画は、このショーヴェ洞窟と壁画に関するドキュメンタリーでした。
タイトルを直訳すると「失われた夢の洞窟」。
(失われたのは夢の方で、洞窟ではありません)
洞窟は1994年に発見されました。フランスの地図ではずいぶん下の方になります。リヨン、アルルを通って地中海に注ぎ込むローヌ川を、地中海から逆に辿ってアヴィニョンよりもう少し北に行くと、アルデシュという川が注ぎ込む場所があります。洞窟は、このアルデシュ川沿いにあります。
川の蛇行に沿って続く白い岸壁、岩を覆う森の緑、そして川面の青と空の青。
絶景です。
しかし、学者たちは風光の明媚さではなくて岸壁に注目していました。洞窟の存在を疑っていたのです。岩の隙間から僅かに漏れ出る風に気づいたことが、この洞窟発見に繋がりました。
壁画が描かれた頃には外に向かって開いた入り口があったのですが、その後の地盤の動きで入り口が壊れたため、外界と接触を断った状態で時間だけが流れました。その結果、壁画はこれほどに古いものとしては信じられないほど、素晴らしい状態で保存されたのです。場所によっては、絵の上でうっすらと結晶化が始まっている部分もありました。
この壁画が、また素晴らしいのです。
ラスコーの壁画ほどの色使いは見られません。ほとんどが木炭。そしてところどころに残された手型の部分だけに赤色が使われています。(手型は全部1人のものだと推定されています)
ほとんどすべての絵は動物が素材です。ライオン、ウマ、サイなどが特に多く描かれている印象でした。線に迷いがなく、描き出された動物のプロフィールが驚くほど写実的だったのが強烈に印象に残りました。
発見当時の保存状態を保つため、洞窟は厳重に管理されています。わずかな研究者だけが、人数も時間も限った範囲で中に入ることができるようです。カメラもほとんど入っていないはず。洞窟内を傷つけないため、持ち込める撮影器具は限られます。照明も、腰に付けたバッテリーで動くノート程度の大きさのものしか使えません。おまけに歩いていい場所も決まっているので、自由に歩いたり、違う方向から撮影するという技も使えません。制限だらけの撮影です。
それでも、本当に貴重なものを見せてもらったと思いました。
撮影の途中で学者の1人が言います。
みなさん、ちょっと黙って。洞窟の音を聞いてみましょう。
わずかなヘッドライトだけに照らされた洞窟内は、奇妙な陰影に彩られた、恐ろしい美しさに満ちた場所でした。聞こえるのは、時折滴り落ちる水滴のこだま。人の息づかい。自分の心臓の音。眠っている動物的な感覚が呼び覚まされるような、奇妙な感覚を味わいます。
そうしてはっきりと悟ります。100年1000年ごとき時間の単位は、大地にとってはほとんど意味はないんだ。人間なんて、ほんの一瞬、大地に住まわせてもらっている種に過ぎない。
映画の最後には原子力発電所の姿が大映しになりました。
先ほども書きましたように、この洞窟があるのがローヌ川近くです。フランスでは原子力発電所は川沿いに作られるのです。ワインで有名なローヌ川沿いは、また原子力関連施設が立ち並ぶ原子力銀座でもあります。このショーヴェ洞窟の30キロ圏内にも原発があります。
洞窟は、自然がそのたゆみない動きで作り上げたもの。
壁画は、原始の人間が動物と自然と共存していたときのもの。
原発は、生物の1種が己の生活のためだけに生み出したもの。
太古の人の自然の認識とその再現に、人間という種の輝きを感じ、
原子力を利用できると考える驕りと独断に、笑っちゃうほどの危うさを感じ、
さて、3万年後にはこの地球はどうなっているんだろうと思いを馳せる
大きな時間の流れにどっぷり浸かったドキュメンタリーでした。
興味がある人には面白いと思います。(当然か)
でも、淡々としたドキュメンタリーなので、、、軽いいびきも聞こえました。
学術用語が満載で、わたしは自分がどのくらい理解できたのかよくわかりません。
<ご参考>
映画の予告編(フランス語)
映画の抜粋(英語)
ショーヴェ洞窟のサイト
(右下のvisite de la grotteをクリックすると洞窟内の様子が見られます)
ラスコーについて書いた過去記事
ラスコー洞窟のヴァーチャル・ツアーが楽しめるサイト
by poirier_AAA
| 2011-09-17 01:13
| 観る・鑑賞する
|
Comments(6)
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mtonosama at 2011-09-17 06:10
8枚の映画チケットの1枚目ですね(^_-)
フランスでも最近原発で爆発があったとか。
海に遠い地域では冷却水確保のため、川沿いに建設するのですね。
32000年前の洞窟というのもすごい数字ですが、
この時期どうしても100000年後の安全が気になってしまいます…
フランスでも最近原発で爆発があったとか。
海に遠い地域では冷却水確保のため、川沿いに建設するのですね。
32000年前の洞窟というのもすごい数字ですが、
この時期どうしても100000年後の安全が気になってしまいます…
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poirier_AAA at 2011-09-17 06:34
>mtonosamaさん、おはようございます。
早起きですね。
最近爆発があった場所も、まさにこのローヌ川沿いだったんですよ。
わたしも同じことを考えました。3万2千年ですら想像を絶するのに、その3倍です。それほど重い負の遺産を残す理由が「便利だから」「停電すると困るから」「他国に負けたくないから」。
ホモサピエンスの登場は、地球にとって時限爆弾のスイッチを入れたようなものだったのかもしれません。
早起きですね。
最近爆発があった場所も、まさにこのローヌ川沿いだったんですよ。
わたしも同じことを考えました。3万2千年ですら想像を絶するのに、その3倍です。それほど重い負の遺産を残す理由が「便利だから」「停電すると困るから」「他国に負けたくないから」。
ホモサピエンスの登場は、地球にとって時限爆弾のスイッチを入れたようなものだったのかもしれません。
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coco
at 2011-09-17 11:30
x
私もこれ観たいです。うわって圧倒されるような映像を観て
みたいですねぇ。
便利な物、いっぱいありますよね今は。でもそれらが登場して
まだ100年も経っていない。長い長い地球の歴史の中では
豆粒にも満たない時間だと思うのですがそれを仕切っていると
勘違いしている人間の傲慢さを感じてしまいます。
みたいですねぇ。
便利な物、いっぱいありますよね今は。でもそれらが登場して
まだ100年も経っていない。長い長い地球の歴史の中では
豆粒にも満たない時間だと思うのですがそれを仕切っていると
勘違いしている人間の傲慢さを感じてしまいます。
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poirier_AAA at 2011-09-17 17:33
>cocoさん、
cocoさんって、洞窟は平気ですか?
わたしは、あの神秘的な感じは大好きなんですが、中にいると大地に圧し潰されるような生理的な恐怖も感じるのです。
たしかにうわって圧倒される映像でした。でも、それだけにぞわぞわと背筋を這う恐怖感も強かったですね。人の存在の気配が希薄な洞窟の雰囲気を、これでもかと味わいました。
人間って、本当に傲慢だと思います。学校でもね、歴史とか地学とか天文学とかといった、想像を絶する時間を扱う教科にもっと重点を置いた方がいいんじゃないの?という気もするのです。人間なんて、本当にちっぽけなものですものね。
cocoさんって、洞窟は平気ですか?
わたしは、あの神秘的な感じは大好きなんですが、中にいると大地に圧し潰されるような生理的な恐怖も感じるのです。
たしかにうわって圧倒される映像でした。でも、それだけにぞわぞわと背筋を這う恐怖感も強かったですね。人の存在の気配が希薄な洞窟の雰囲気を、これでもかと味わいました。
人間って、本当に傲慢だと思います。学校でもね、歴史とか地学とか天文学とかといった、想像を絶する時間を扱う教科にもっと重点を置いた方がいいんじゃないの?という気もするのです。人間なんて、本当にちっぽけなものですものね。
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coco
at 2011-09-17 19:18
x
うん、平気です♪なんて言うんでしょう。。。こうちょっと
別世界にきちゃったような感覚になりますよね?それが
多分宇宙とかにロマンを感じる人と同じような感覚になります。
確かにある種の“気味悪さ”みたいなのは感じますけれど
それを含めて過去のや自然の強さと重みを感じます!!!
自分の記憶だけで言うとそういう時間ってさらさら~っと
学校では過ぎていったような。。興味を持たせるような
意図もなかったと思いますねぇ。なんせテスト重心ですから。
別世界にきちゃったような感覚になりますよね?それが
多分宇宙とかにロマンを感じる人と同じような感覚になります。
確かにある種の“気味悪さ”みたいなのは感じますけれど
それを含めて過去のや自然の強さと重みを感じます!!!
自分の記憶だけで言うとそういう時間ってさらさら~っと
学校では過ぎていったような。。興味を持たせるような
意図もなかったと思いますねぇ。なんせテスト重心ですから。
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by
poirier_AAA at 2011-09-18 06:17
>cocoさん、こんばんは。
確かに別世界ですね。わたしは、ここは人間のための場所じゃないという畏怖を感じるのです。しかも四方を囲まれてしまいますからね、逃げ場がない恐さがあります。できるだけ自分の気配を消して、そおっと中を見せてもらうのです。
確かに別世界ですね。わたしは、ここは人間のための場所じゃないという畏怖を感じるのです。しかも四方を囲まれてしまいますからね、逃げ場がない恐さがあります。できるだけ自分の気配を消して、そおっと中を見せてもらうのです。