2011年 06月 09日
リヒャルト・シュトラウスと「ばらの騎士」 |
昨夜テレビをつけたらリヒャルト・シュトラウスの「ドン・ファン」をやっていて、思わず目と耳が釘付けに。2006年ベルリン・フィルのジルベスター・コンサートの録画だった。指揮はサイモン・ラトル。
「ドン・ファン」って、華やかで面白いから大好き。
実は以前オーケストラで演奏したことがある。でも、一体どこのオーケストラでやったのか、自分のパートがどんな動きをしていたのか、肝心のことを恐ろしいくらい全部忘れている。これは完全にトラウマだね。覚えていたくない思い出は都合よく忘れてしまうのだ。なにせものすごく難しい曲だったんだもの。それでも面白い(つまり興味の尽きない)曲であることには変わりなし。
YouTubeでアバド/BPOの演奏を見つけた。こちらの方がラトルよりもわたしのイメージに近い感じ。よろしかったらどうぞ。
(前半)http://www.youtube.com/watch?v=ELbHjgWi1dk&feature=related
(後半)http://www.youtube.com/watch?v=YTjWa8xelXo&feature=related
で、2曲目は内田光子のピアノでモーツアルトのピアノ協奏曲第20番。
3曲目は再びリヒャルト・シュトラウスで「ばらの騎士」の第3幕の最後の部分。
元帥夫人:カミラ・ニュルンド(so)
オクタヴィアン:マグダレーナ・コジェナー(ms)
ゾフィー:ローラ・エイキン(so)
「ばらの騎士」を一言で説明するなら、もう若くない女と若い男女の3人の恋愛劇、とでもなろうか。
オペラの序曲が終わって舞台が開くと、そこは寝室で男女が戯れている。美しいけれどもう若くはない元帥夫人のマリー=テレーズと、若い青年貴族オクタヴィアン。オクタヴィアンは元帥夫人との情事に夢中だ(と思い込んでいる)けれど、オクタヴィアンよりも世の中の経験を積んでいる元帥夫人はこの情事にもやがて終わりがくることを考えないではいられない。若さのまっただ中にいる人間と、若さから離れて老いと向き合う人間の間に横たわる、どうにも埋められない溝。
終わりは想像していたよりもずっと早くやってくる。ある娘のもとに結納の品として銀のばらを届ける使者の役目を仰せつかったオクタヴィアンが、その娘ゾフィーと会った途端恋に落ちてしまうのだ。オクタヴィアンの心変わりを察した元帥夫人が、最後は自ら身を引いて若い2人を祝福する。
途中にばたばた騒ぎは入るものの、なんといってもこの作品のすべては3人それぞれが滔々と心情を歌い上げるところにある。それで3時間超の演奏時間なのだから、どれだけ丁寧に心理描写されているかがわかろうというもの。
演奏会で取り上げられたのはこの作品の最大の聴き所ともいえる一番最後の三重唱以降で、つまり元帥夫人が身を引いて若い2人がハッピーエンドをむかえるところ。女性3人によって歌い上げられる天国的に美しい部分。いつ聴いても、何度聴いても、これほどゴージャスでしかも繊細な素晴らしい作品があろうか思う。しあわせ〜。現実の世界で腹を立てていたことなんてスッカリ忘れて、陶然としちゃうね。
百聞は一見(一聴)に如かずなので、これも是非どうぞ。
まずは、押しも押されぬ名盤、1960年のザルツブルグ盤を。
カラヤン/ウィーン・フィル/シュヴァルツコップ/ユリナッチ/ローテンベルガー
(三重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=J_BVNKiphrk&feature=related
(二重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=HRX98UjM5oE&feature=related
この盤の良さは、外見的に声的にも3人のバランスが上手くとれているところ。さらにシュヴァルツコップがこれ以上はないくらい貴族的な風格を漂わせていて視覚的にもため息ものだ。彼女が舞台から退場しようとする最後にオクタヴィアンに手を差し出すところなんて、後ろ姿だけで雄弁に女の気持ちを表現してみせる。素晴らしい演技力なり。(二重唱の4'15から5'40)
次は、これも完成度では引けを取らない1986年のコヴェント・ガーデン盤で。
ショルティ/テ=カナワ/ハウエルズ/ボニー
(三重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=3WIscFQy1CQ&feature=related
(二重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=QCB3QQ1paU4&feature=related
これもバランスが良いと思う。ゾフィー役のバーバラ・ボニーが、外見も声も愛らしさ初々しさがあって素晴らしい適役ぶり。高音をピアニシモで歌い上げる二重唱が優しくて耳に心地良い。他のいろいろなオクタヴィアン役とも歌っているけれど、アン・ハウエルズと一緒のこれは声の質も大きさもバランスが良いような気がする。
演奏会形式で行われることも多い。これはリヒャルト・シュトラウス・ガラから。
アバド/ベルリン・フィル/フレミング/フォン=シュターデ/バトル
(三重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=mnkUNYhTlK8&feature=related
(二重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=ugdkF5BlVhk&NR=1
最後にこんなものも見つけたのでどうぞ。
ベルリン・フィルとサイモン・ラトルから日本に向けてのメッセージ。
http://www.youtube.com/watch?v=od49LF_x30w
「ドン・ファン」って、華やかで面白いから大好き。
実は以前オーケストラで演奏したことがある。でも、一体どこのオーケストラでやったのか、自分のパートがどんな動きをしていたのか、肝心のことを恐ろしいくらい全部忘れている。これは完全にトラウマだね。覚えていたくない思い出は都合よく忘れてしまうのだ。なにせものすごく難しい曲だったんだもの。それでも面白い(つまり興味の尽きない)曲であることには変わりなし。
YouTubeでアバド/BPOの演奏を見つけた。こちらの方がラトルよりもわたしのイメージに近い感じ。よろしかったらどうぞ。
(前半)http://www.youtube.com/watch?v=ELbHjgWi1dk&feature=related
(後半)http://www.youtube.com/watch?v=YTjWa8xelXo&feature=related
で、2曲目は内田光子のピアノでモーツアルトのピアノ協奏曲第20番。
3曲目は再びリヒャルト・シュトラウスで「ばらの騎士」の第3幕の最後の部分。
元帥夫人:カミラ・ニュルンド(so)
オクタヴィアン:マグダレーナ・コジェナー(ms)
ゾフィー:ローラ・エイキン(so)
「ばらの騎士」を一言で説明するなら、もう若くない女と若い男女の3人の恋愛劇、とでもなろうか。
オペラの序曲が終わって舞台が開くと、そこは寝室で男女が戯れている。美しいけれどもう若くはない元帥夫人のマリー=テレーズと、若い青年貴族オクタヴィアン。オクタヴィアンは元帥夫人との情事に夢中だ(と思い込んでいる)けれど、オクタヴィアンよりも世の中の経験を積んでいる元帥夫人はこの情事にもやがて終わりがくることを考えないではいられない。若さのまっただ中にいる人間と、若さから離れて老いと向き合う人間の間に横たわる、どうにも埋められない溝。
終わりは想像していたよりもずっと早くやってくる。ある娘のもとに結納の品として銀のばらを届ける使者の役目を仰せつかったオクタヴィアンが、その娘ゾフィーと会った途端恋に落ちてしまうのだ。オクタヴィアンの心変わりを察した元帥夫人が、最後は自ら身を引いて若い2人を祝福する。
途中にばたばた騒ぎは入るものの、なんといってもこの作品のすべては3人それぞれが滔々と心情を歌い上げるところにある。それで3時間超の演奏時間なのだから、どれだけ丁寧に心理描写されているかがわかろうというもの。
演奏会で取り上げられたのはこの作品の最大の聴き所ともいえる一番最後の三重唱以降で、つまり元帥夫人が身を引いて若い2人がハッピーエンドをむかえるところ。女性3人によって歌い上げられる天国的に美しい部分。いつ聴いても、何度聴いても、これほどゴージャスでしかも繊細な素晴らしい作品があろうか思う。しあわせ〜。現実の世界で腹を立てていたことなんてスッカリ忘れて、陶然としちゃうね。
百聞は一見(一聴)に如かずなので、これも是非どうぞ。
まずは、押しも押されぬ名盤、1960年のザルツブルグ盤を。
カラヤン/ウィーン・フィル/シュヴァルツコップ/ユリナッチ/ローテンベルガー
(三重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=J_BVNKiphrk&feature=related
(二重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=HRX98UjM5oE&feature=related
この盤の良さは、外見的に声的にも3人のバランスが上手くとれているところ。さらにシュヴァルツコップがこれ以上はないくらい貴族的な風格を漂わせていて視覚的にもため息ものだ。彼女が舞台から退場しようとする最後にオクタヴィアンに手を差し出すところなんて、後ろ姿だけで雄弁に女の気持ちを表現してみせる。素晴らしい演技力なり。(二重唱の4'15から5'40)
次は、これも完成度では引けを取らない1986年のコヴェント・ガーデン盤で。
ショルティ/テ=カナワ/ハウエルズ/ボニー
(三重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=3WIscFQy1CQ&feature=related
(二重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=QCB3QQ1paU4&feature=related
これもバランスが良いと思う。ゾフィー役のバーバラ・ボニーが、外見も声も愛らしさ初々しさがあって素晴らしい適役ぶり。高音をピアニシモで歌い上げる二重唱が優しくて耳に心地良い。他のいろいろなオクタヴィアン役とも歌っているけれど、アン・ハウエルズと一緒のこれは声の質も大きさもバランスが良いような気がする。
演奏会形式で行われることも多い。これはリヒャルト・シュトラウス・ガラから。
アバド/ベルリン・フィル/フレミング/フォン=シュターデ/バトル
(三重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=mnkUNYhTlK8&feature=related
(二重唱)
http://www.youtube.com/watch?v=ugdkF5BlVhk&NR=1
最後にこんなものも見つけたのでどうぞ。
ベルリン・フィルとサイモン・ラトルから日本に向けてのメッセージ。
http://www.youtube.com/watch?v=od49LF_x30w
by poirier_AAA
| 2011-06-09 23:03
| 聴く
|
Comments(4)
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by
kobakong
at 2012-04-10 09:12
x
「殿様の試写室」から流れ流れて、ここにたどりつきました。貴ブログに書かれているあんなこと、こんなこと、すごく面白くて思わず読み込んでしまいます。
「バラの騎士」は僕も大好きなオペラです。シュルツコップはたしか90年代に来日してこのオペラを演りましたね。指揮はカルロス・クライバーだったような、、。残念ながらそのころ僕はクラシックに目覚めてなくて、見逃してしまったのが悔やまれます。
オクタヴィアンをやれる人はごくごく限られていると思いますが、個人的にはA.ソフィー・フォン・オターのオクタヴィアンには凛とした気品が漂っていて好きですね。ハンサムな貴族の男性を凛とした女性が演じるというのはどこか倒錯的な官能があって、同じズボン役でも「フィガロ」のケルビーノとは大違いです。
しかし、R.シュトラウスという人は、片一方では「英雄の生涯」などを作曲しておいて、こんなオペラを作ってしまうんですから、すごい二面性の持ち主だと思いませんか?
「バラの騎士」は僕も大好きなオペラです。シュルツコップはたしか90年代に来日してこのオペラを演りましたね。指揮はカルロス・クライバーだったような、、。残念ながらそのころ僕はクラシックに目覚めてなくて、見逃してしまったのが悔やまれます。
オクタヴィアンをやれる人はごくごく限られていると思いますが、個人的にはA.ソフィー・フォン・オターのオクタヴィアンには凛とした気品が漂っていて好きですね。ハンサムな貴族の男性を凛とした女性が演じるというのはどこか倒錯的な官能があって、同じズボン役でも「フィガロ」のケルビーノとは大違いです。
しかし、R.シュトラウスという人は、片一方では「英雄の生涯」などを作曲しておいて、こんなオペラを作ってしまうんですから、すごい二面性の持ち主だと思いませんか?
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poirier_AAA at 2012-04-10 16:08
>kobakongさん、初めまして。ようこそおいでくださいました。
R.シュトラウスってつくづく派手ですよね。そのゴージャスさが嫌みでないところが凄いと思います。「英雄の生涯」とか「家庭交響曲」「アルプス交響曲」という名前は、正直言って全然好みではないです。こういう名前を付けちゃう人の感性ってどうなんだろうと思ってしまいますよ。でも、音楽的には決して二面性を持っているようには感じられず、「四つの最後の歌」のような非常に繊細な作品でも「英雄の生涯」のようなどーんと大きくタイトルをつけたような作品でも、むしろ常に一貫性を保っているように感じています。
オクタヴィアンは声だけでなく容姿でも厳しく問われる点で難しい役ですよね。それだけにぴったりの歌手が出てくると嬉しさもひとしおです。フォン・オッターはわたしも好きです。
1990年代のクライバー&ウィーン国立歌劇場の来日公演は、クラシックにばりばりに目覚めている人でもチケットが全然とれなくて泣いたんですよ。本当に、あれが生で観られたら一生の思い出になったと思います。クライバーが来日した時に自分も東京にいて同じ空気を吸っていたというのが、せめてもの慰めです。
R.シュトラウスってつくづく派手ですよね。そのゴージャスさが嫌みでないところが凄いと思います。「英雄の生涯」とか「家庭交響曲」「アルプス交響曲」という名前は、正直言って全然好みではないです。こういう名前を付けちゃう人の感性ってどうなんだろうと思ってしまいますよ。でも、音楽的には決して二面性を持っているようには感じられず、「四つの最後の歌」のような非常に繊細な作品でも「英雄の生涯」のようなどーんと大きくタイトルをつけたような作品でも、むしろ常に一貫性を保っているように感じています。
オクタヴィアンは声だけでなく容姿でも厳しく問われる点で難しい役ですよね。それだけにぴったりの歌手が出てくると嬉しさもひとしおです。フォン・オッターはわたしも好きです。
1990年代のクライバー&ウィーン国立歌劇場の来日公演は、クラシックにばりばりに目覚めている人でもチケットが全然とれなくて泣いたんですよ。本当に、あれが生で観られたら一生の思い出になったと思います。クライバーが来日した時に自分も東京にいて同じ空気を吸っていたというのが、せめてもの慰めです。
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kobakong
at 2012-04-10 20:15
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クライバー&ウィーン国立日本公演の伝説は知っております。たしか、立花隆さんの秘書の方が著書に書いていらっしゃいました。彼女は幸運にもチケットをゲットしたのですが、その当日の緊張と興奮は極度にすごいものでして、朝から睡眠と食事の時間までぴたっと決めて夜の本番にそなえてから臨んだ、、とありました。観客をしてここまでさせしめてしまう音楽公演というのはそう、ざらにはないですね。
あ、梨の木さんはYou tubeで色々楽しい音楽をアップしてくださっておりますが、「リゴレット」を本場のローマ歌劇場で見た思い出が鮮やかに蘇りました。なんだか日本でみるオペラとは全く別物でした、、。
最後に僕も、最近気にいっているパリのストリートが似合う女性歌手
ZAZ(ご存じですか?)のパフォーマンスをお届けしておきましょう。いやあ、これを見るたびにパリに行きたくなります。
http://www.youtube.com/watch?v=9B9XfHYCxgs&feature=youtube_gdata_player
http://www.youtube.com/watch?v=EiiW6fHwS9g&feature=youtube_gdata_player
ではまた。
あ、梨の木さんはYou tubeで色々楽しい音楽をアップしてくださっておりますが、「リゴレット」を本場のローマ歌劇場で見た思い出が鮮やかに蘇りました。なんだか日本でみるオペラとは全く別物でした、、。
最後に僕も、最近気にいっているパリのストリートが似合う女性歌手
ZAZ(ご存じですか?)のパフォーマンスをお届けしておきましょう。いやあ、これを見るたびにパリに行きたくなります。
http://www.youtube.com/watch?v=9B9XfHYCxgs&feature=youtube_gdata_player
http://www.youtube.com/watch?v=EiiW6fHwS9g&feature=youtube_gdata_player
ではまた。
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poirier_AAA at 2012-04-11 02:16
>kobakongさん、こんにちは。
そうでしょうね。わたしも、もしチケットが取れていたら当日は仕事なんぞまったく手につかなかっただろうと思います。クライバーは当日キャンセルの可能性もある指揮者でしたから、本人が舞台に現れて指揮棒を振り上げる瞬間が来るまでは、期待と不安で胃がきりきり痛んだことでしょう。オケが鳴り出した時は、きっと聴衆全員が興奮で天まで舞い上がったと思います。
ZAZのことは、しばらく前にブログ友達経由で知りました。彼女はパリの街角で歌うのがとても似合いますね。住んでみるといろいろと(マイナス面で)気になるところもたくさんありますが、器としてみるとパリは美しい街だと思います。
そうでしょうね。わたしも、もしチケットが取れていたら当日は仕事なんぞまったく手につかなかっただろうと思います。クライバーは当日キャンセルの可能性もある指揮者でしたから、本人が舞台に現れて指揮棒を振り上げる瞬間が来るまでは、期待と不安で胃がきりきり痛んだことでしょう。オケが鳴り出した時は、きっと聴衆全員が興奮で天まで舞い上がったと思います。
ZAZのことは、しばらく前にブログ友達経由で知りました。彼女はパリの街角で歌うのがとても似合いますね。住んでみるといろいろと(マイナス面で)気になるところもたくさんありますが、器としてみるとパリは美しい街だと思います。