2010年 11月 18日
匂いの思い出 |
毎晩の夕ご飯、夫が帰って来た時にすぐ熱いところを出せるようなタイミングで用意しています。「ただいま(これ、日本語)」という第一声に続く夫の言葉は、だいたいが「あぁ、いいにおい〜」。玄関と台所が接近しているため、どうしても料理の匂いが玄関周辺まで漂ってしまうのです。そして、長年(?)の経験でわたしの少ないレパートリーを知り尽くす夫は、だいたいドアを開けた瞬間に夕食のメニューの見当をつけてしまうらしいです。
そんな夫の様子を見ていて、急に昔のことを思い出してしまいました。
実家が今の場所に引っ越す前の、古い、懐かしい家でのことです。
わたしはまだ小さくて、家の周りは夏ともなるとカエルの大合唱が聞こえるような水田だらけの田舎。家の裏には幅2mくらいの農業用水が流れていて、それに沿って車がようやく1台通れるくらいの道が続いています。
わがやの台所はこの道に面した北側にありました。昔ながらのぷるぷると羽根のまわる簡単な換気扇が付いていて、台所の匂いはすべて裏の道に向って排出されます。
遊んで帰って来て家が近づくと、ぷ〜んと我が家の台所から料理の匂いが漂ってきます。自慢じゃないけれど、わたしはこの匂いで料理や素材を当てるのがすごく得意でした。今日のご飯は○○、付け合わせは○○の煮物だねと言い当てて祖母を驚かせては得意になっていました。
夕食の時間は遅くても7時くらいだったと思います。夕食の支度はいつも5時前に始まります。野菜を下ごしらえし、茹でたり、煮たりがまず最初の仕事。夕食前の30分からは佳境に入ります。メインのおかずが仕上げられ、ご飯が炊きあがり、食卓が整い、最後の3分でお味噌汁を仕上げます。そんなわけで、5時から7時の間、我が家の台所からは常に何かしら料理(食品)の匂いが漂っているのでした。
わたしが中学生の頃でしたか、裏の道をしばらく行った先に小さな菓子工場が出来ました。風向きによって、ときどき甘い匂いが漂ってきました。
我が家の台所が佳境に入る時間帯は、ちょうど工場で働く人たちの帰宅時間と重なります。話しながら帰途につく人たちの声が台所にいてもよく聞こえました。
あるとき、祖母だったか母だったかが裏で用事をしているとき、ちょうど通りかかった工場帰りの人が声をかけて来たんだそうです。
ここのお宅の方ですか?いつも好い匂いをごちそうさまです。いつ通っても美味しそうな匂いがするので、ここを通るとお腹がすいてたまらないんですよ。
一日中甘い匂いの中で働いている人たちです。ちょうどお腹がすいた帰宅時間に、塩気を感じさせる好い匂いが漂って来たら、否が応でも食欲を刺激されたことでしょうね。親元を離れて東京で一人で暮らすようになり、疲れて帰える道すがらよその家から美味しそうな匂いが流れてくるたびに、わたしも余計に空腹感を覚えたものです。お腹だけじゃなくて、一人きりの家も寂しかったのかもしれないななんて、今となると思います。
フランス語に「foyer(フォワイエ)」という単語があります。家庭とか家族とか世帯という意味ですが、同時に(家庭の)炉、暖炉、かまどという意味もあります。確かに、家庭というのは同じ火を囲み同じ釜の飯を分け合うことで絆が結ばれている関係とも言えますよね。ガスや電気の火じゃ囲炉裏やかまどの雰囲気は出ないけれど、やっぱり台所が家庭の中心であることには変わりはないんだろうと思います。
そんな夫の様子を見ていて、急に昔のことを思い出してしまいました。
実家が今の場所に引っ越す前の、古い、懐かしい家でのことです。
わたしはまだ小さくて、家の周りは夏ともなるとカエルの大合唱が聞こえるような水田だらけの田舎。家の裏には幅2mくらいの農業用水が流れていて、それに沿って車がようやく1台通れるくらいの道が続いています。
わがやの台所はこの道に面した北側にありました。昔ながらのぷるぷると羽根のまわる簡単な換気扇が付いていて、台所の匂いはすべて裏の道に向って排出されます。
遊んで帰って来て家が近づくと、ぷ〜んと我が家の台所から料理の匂いが漂ってきます。自慢じゃないけれど、わたしはこの匂いで料理や素材を当てるのがすごく得意でした。今日のご飯は○○、付け合わせは○○の煮物だねと言い当てて祖母を驚かせては得意になっていました。
夕食の時間は遅くても7時くらいだったと思います。夕食の支度はいつも5時前に始まります。野菜を下ごしらえし、茹でたり、煮たりがまず最初の仕事。夕食前の30分からは佳境に入ります。メインのおかずが仕上げられ、ご飯が炊きあがり、食卓が整い、最後の3分でお味噌汁を仕上げます。そんなわけで、5時から7時の間、我が家の台所からは常に何かしら料理(食品)の匂いが漂っているのでした。
わたしが中学生の頃でしたか、裏の道をしばらく行った先に小さな菓子工場が出来ました。風向きによって、ときどき甘い匂いが漂ってきました。
我が家の台所が佳境に入る時間帯は、ちょうど工場で働く人たちの帰宅時間と重なります。話しながら帰途につく人たちの声が台所にいてもよく聞こえました。
あるとき、祖母だったか母だったかが裏で用事をしているとき、ちょうど通りかかった工場帰りの人が声をかけて来たんだそうです。
ここのお宅の方ですか?いつも好い匂いをごちそうさまです。いつ通っても美味しそうな匂いがするので、ここを通るとお腹がすいてたまらないんですよ。
一日中甘い匂いの中で働いている人たちです。ちょうどお腹がすいた帰宅時間に、塩気を感じさせる好い匂いが漂って来たら、否が応でも食欲を刺激されたことでしょうね。親元を離れて東京で一人で暮らすようになり、疲れて帰える道すがらよその家から美味しそうな匂いが流れてくるたびに、わたしも余計に空腹感を覚えたものです。お腹だけじゃなくて、一人きりの家も寂しかったのかもしれないななんて、今となると思います。
フランス語に「foyer(フォワイエ)」という単語があります。家庭とか家族とか世帯という意味ですが、同時に(家庭の)炉、暖炉、かまどという意味もあります。確かに、家庭というのは同じ火を囲み同じ釜の飯を分け合うことで絆が結ばれている関係とも言えますよね。ガスや電気の火じゃ囲炉裏やかまどの雰囲気は出ないけれど、やっぱり台所が家庭の中心であることには変わりはないんだろうと思います。
by poirier_AAA
| 2010-11-18 01:05
| 思い出す
|
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