2010年 06月 04日
責難は成事にあらず |
小野不由美さんの「十二国記」シリーズは、ときどき読み返したくなる作品の一つです。十二国という架空の世界の話ですが、ビルドゥングスロマンの色合いが強いと感じます。話が面白いのでグイグイ引き込まれるし、漢字が多い文章がまた独特の読み心地で、かなり好きなのです。
タイトルの言葉は、このシリーズの中の1冊「華胥の幽夢(かしょのゆめ)」に出てきます。
ある国で、野にあって時の王の失政を糾弾し、国の荒廃と闘った党徒がいました。問題の王が倒れて新しい王の座についたのが、その党徒のリーダーだった若者です。高い理想を掲げ、誠心誠意を尽くして政治に取り組む新王に、誰もが理想の国の実現を確信します。が、現実は違いました。国の荒廃は収まるどころか酷くなる一方。国はどんどんと傾いて行きます。いろいろあって、結局この新王は王座から身をひくことになりますが、そのときに残した言葉が、今日のタイトルにある「責難は成事にあらず」でした。
これは、人を責めるだけでは何か成したことにはならない、という意味です。
新王とその仲間たちは、ずっと前王のやり方に異を唱えてきました。理想の国とはこういうものだと声高に語ってきました。しかし、それは自分が権力の座についた時に善政をしけるということとはまったく別な話だったのです。彼らがして来たことは、前王を非難することであって、国を良く治めるためにどうしたらいいのかという具体的な方法を何も知らなかった、というわけです
この言葉、ときどきふっと思い出します。わたしは、とかく文句が多い人間なので、ついひとことを口に出してしまいます。でも、それって何の解決にもなっていないんですよね。気に入らないことがあったら、それを少しでも良い方向に動かすことを考えるのが、不満を解消する一番手っ取り早い方法なんです。文句を言うか言わないかも気の持ちようです。親の背中を見て子どもは育ちます。「文句を言っている暇があったら、自分で気の済むようにやってみたら?」「文句ばかり言っていると、良いことが逃げて行っちゃうよ」などと子どもに言いながら、あぁ、これは自分に言い聞かせる言葉であったと、猛烈に反省することがよくあります。
文句があるなら、ぐずぐずと愚痴っていないで、きちんと相手に伝えて解決を図ること。文句の言い逃げをしないこと。何かおかしいと指摘することも必要だけど、同じだけの熱心さを持って良い面を評価することにも積極的であること。そういう姿勢をきちんと見せられるようでありたいと強く思います。子どもを育てているのだか、子どものために自分を育てているのかわからない、本当に情けない親です。
ちなみに、この十二国記シリーズは、なんとフランス語にも訳されています。先日本屋で見つけてびっくりしました。日本では講談社文庫から出ているので普通の小説扱いですが、フランスでは10代の子ども向けと思われるコーナーにありました。表紙には講談社X文庫の同シリーズと同じようなイラストが描かれていたので、そちらの仏語訳なのかもしれません。日本の漫画やアニメの海外進出度は凄いですからね。このシリーズもその一環として人気があるのだと思います。
タイトルの言葉は、このシリーズの中の1冊「華胥の幽夢(かしょのゆめ)」に出てきます。
ある国で、野にあって時の王の失政を糾弾し、国の荒廃と闘った党徒がいました。問題の王が倒れて新しい王の座についたのが、その党徒のリーダーだった若者です。高い理想を掲げ、誠心誠意を尽くして政治に取り組む新王に、誰もが理想の国の実現を確信します。が、現実は違いました。国の荒廃は収まるどころか酷くなる一方。国はどんどんと傾いて行きます。いろいろあって、結局この新王は王座から身をひくことになりますが、そのときに残した言葉が、今日のタイトルにある「責難は成事にあらず」でした。
これは、人を責めるだけでは何か成したことにはならない、という意味です。
新王とその仲間たちは、ずっと前王のやり方に異を唱えてきました。理想の国とはこういうものだと声高に語ってきました。しかし、それは自分が権力の座についた時に善政をしけるということとはまったく別な話だったのです。彼らがして来たことは、前王を非難することであって、国を良く治めるためにどうしたらいいのかという具体的な方法を何も知らなかった、というわけです
この言葉、ときどきふっと思い出します。わたしは、とかく文句が多い人間なので、ついひとことを口に出してしまいます。でも、それって何の解決にもなっていないんですよね。気に入らないことがあったら、それを少しでも良い方向に動かすことを考えるのが、不満を解消する一番手っ取り早い方法なんです。文句を言うか言わないかも気の持ちようです。親の背中を見て子どもは育ちます。「文句を言っている暇があったら、自分で気の済むようにやってみたら?」「文句ばかり言っていると、良いことが逃げて行っちゃうよ」などと子どもに言いながら、あぁ、これは自分に言い聞かせる言葉であったと、猛烈に反省することがよくあります。
文句があるなら、ぐずぐずと愚痴っていないで、きちんと相手に伝えて解決を図ること。文句の言い逃げをしないこと。何かおかしいと指摘することも必要だけど、同じだけの熱心さを持って良い面を評価することにも積極的であること。そういう姿勢をきちんと見せられるようでありたいと強く思います。子どもを育てているのだか、子どものために自分を育てているのかわからない、本当に情けない親です。
ちなみに、この十二国記シリーズは、なんとフランス語にも訳されています。先日本屋で見つけてびっくりしました。日本では講談社文庫から出ているので普通の小説扱いですが、フランスでは10代の子ども向けと思われるコーナーにありました。表紙には講談社X文庫の同シリーズと同じようなイラストが描かれていたので、そちらの仏語訳なのかもしれません。日本の漫画やアニメの海外進出度は凄いですからね。このシリーズもその一環として人気があるのだと思います。
by poirier_AAA
| 2010-06-04 20:09
| 日本語を読む
|
Comments(6)
つい最近、同趣旨のことを書きました。還暦を過ぎて気付くとは、遅すぎると自省しました。その後、週刊誌でしょうか、この言葉に出会い、出展を調べたところ、驚きました。実によい出来栄えです。出典:老子とか書経とかといった感じですよね。良質の批判と、そうでない批判を分かつものは、何でしょうか。いずれ、マスコミをはじめ、社会をリードする人たちに、お勧めの言葉です。
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poirier_AAA at 2010-12-01 17:25
>人見たかしさん
コメントありがとうございます。
実は、この言葉を検索して当ブログを訪れる方がとても多いのです。わたしは自分にいいきかせるつもりでこれを書きましたが、わたしと同じようにこの言葉から何かを感じる人が多いようですね。
批判の質の良し悪しももちろんあると思いますが、どちらにしても批判すれば事が解決すると勘違いしてはいけないということだと思います。わたしは若者というよりも、いま現在社会を動かしている大人が意識しなければいけない言葉だろうと思っています。
コメントありがとうございます。
実は、この言葉を検索して当ブログを訪れる方がとても多いのです。わたしは自分にいいきかせるつもりでこれを書きましたが、わたしと同じようにこの言葉から何かを感じる人が多いようですね。
批判の質の良し悪しももちろんあると思いますが、どちらにしても批判すれば事が解決すると勘違いしてはいけないということだと思います。わたしは若者というよりも、いま現在社会を動かしている大人が意識しなければいけない言葉だろうと思っています。
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藤原彰浩
at 2011-02-28 22:21
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はじめまして、日本の岩手県からコメントしています。
私もこの言葉が好きです。
最近の日本の政治のゴタゴタを見ていると、この言葉を思い出します。批判する側も内々だけでなく、もっと外に向けて自らの言葉を尽くしていく事が大切なんだろうなと改めて感じました。
そして、この言葉が綴られた「華胥」も含めたの他の短編を読んでいると、共通して「国を御することの難しさ」を強く感じます。今の新たな政権与党は誕生してまだ1年半ほど・・・。やはり一国を治めるのは難しいものです。
我々も批判ばかりでなく「どうしたら日本をいい方向に進路を取れるか」をお互いに話し合う岐路に立っているのかもしれませんね。
ちなみに十二国シリーズは新潮社の雑誌「yom yom」で短編が不定期掲載されています。もしパリにお住まいの中でも、機会がありましたらご一読をお勧めいたします。
長文且つ駄文で申し訳ありませんでした。
私もこの言葉が好きです。
最近の日本の政治のゴタゴタを見ていると、この言葉を思い出します。批判する側も内々だけでなく、もっと外に向けて自らの言葉を尽くしていく事が大切なんだろうなと改めて感じました。
そして、この言葉が綴られた「華胥」も含めたの他の短編を読んでいると、共通して「国を御することの難しさ」を強く感じます。今の新たな政権与党は誕生してまだ1年半ほど・・・。やはり一国を治めるのは難しいものです。
我々も批判ばかりでなく「どうしたら日本をいい方向に進路を取れるか」をお互いに話し合う岐路に立っているのかもしれませんね。
ちなみに十二国シリーズは新潮社の雑誌「yom yom」で短編が不定期掲載されています。もしパリにお住まいの中でも、機会がありましたらご一読をお勧めいたします。
長文且つ駄文で申し訳ありませんでした。
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poirier_AAA at 2011-03-01 07:45
>藤原彰浩さん、こんばんは。
コメントをありがとうございました。日本の政治を見ていると、本当に片っ端から批判したくなると申しましょうか、どうしてそんなに内向きで危機感無くやっていられるのだと無性に腹が立ったりします。でも、大事なのは政治家批判をするだけではなくて、何処に向って進みたいかという明確なビジョンを持つこと、そこに至るための方法論がきちんと議論されるよう、国民側がしっかりと意思を持つことだろうと思っています。日本人、簡単にあきらめている場合じゃないよと最近は特に思います。
十二国記シリーズ、お読みになったのですね。文庫になっていない短編も読んでみたいと常々思っておりました。しかし、それより何より中途半端に終わっている「ある北国」の行く末が気になってたまりません。小野不由美さんが長編の続きを書く気になって下さると嬉しいんですが。
コメントをありがとうございました。日本の政治を見ていると、本当に片っ端から批判したくなると申しましょうか、どうしてそんなに内向きで危機感無くやっていられるのだと無性に腹が立ったりします。でも、大事なのは政治家批判をするだけではなくて、何処に向って進みたいかという明確なビジョンを持つこと、そこに至るための方法論がきちんと議論されるよう、国民側がしっかりと意思を持つことだろうと思っています。日本人、簡単にあきらめている場合じゃないよと最近は特に思います。
十二国記シリーズ、お読みになったのですね。文庫になっていない短編も読んでみたいと常々思っておりました。しかし、それより何より中途半端に終わっている「ある北国」の行く末が気になってたまりません。小野不由美さんが長編の続きを書く気になって下さると嬉しいんですが。
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at 2020-06-02 11:51
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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poirier_AAA at 2020-06-02 19:09
> kagikome さん、こんにちは。
十二国記はおもしろいです。機会があったら読んでみていただきたいですが、そういえばアニメにもなっていますね。フランス語版のDVDもでているくらいなので、英語バージョンもレンタルできるかもしれません。
日本語では「欧米」なんてすごく大雑把にまとめて扱ったりしますけれど、欧州とアメリカは違いますね。そして欧州の中でもそれぞれの国で個性があるし、アメリカのそれぞれの州にも個性がある。そこで生じる数々の軋轢は、経験を積み重ねて反省し、より良き方向に進みたいと人が知恵をしぼることでしか解決できないのだと思います。アメリカはまだまだ若い。そして非常にピューリタン的だとも感じます(これは今いる環境がカトリック的だから思うのかも)。自分がフランスでなくアメリカに移住していたら、今頃どんなふうになっていただろう、なんて思うこともよくありますよ。
十二国記はおもしろいです。機会があったら読んでみていただきたいですが、そういえばアニメにもなっていますね。フランス語版のDVDもでているくらいなので、英語バージョンもレンタルできるかもしれません。
日本語では「欧米」なんてすごく大雑把にまとめて扱ったりしますけれど、欧州とアメリカは違いますね。そして欧州の中でもそれぞれの国で個性があるし、アメリカのそれぞれの州にも個性がある。そこで生じる数々の軋轢は、経験を積み重ねて反省し、より良き方向に進みたいと人が知恵をしぼることでしか解決できないのだと思います。アメリカはまだまだ若い。そして非常にピューリタン的だとも感じます(これは今いる環境がカトリック的だから思うのかも)。自分がフランスでなくアメリカに移住していたら、今頃どんなふうになっていただろう、なんて思うこともよくありますよ。