2010年 02月 23日
Zorba the Greek |
邦題では「その男ゾルバ」、1964年の映画です。
店頭の安売りワゴンの中に見つけて、たまらずに買ってしまいました。
主役のゾルバを演じるのはアンソニー・クイン。クレタ島に渡ろうとする英国人の若い作家の前にゾルバと名乗るギリシャ人が現れ、強引に親しくなっていくところから物語は始まります。
なんといっても、アンソニー・クインが好い。酒好き女好き、根っからの楽天家で図々しくて開けっぴろげ、得体が知れないのに憎めない、ゾルバという男の存在感はアンソニー・クインなしには実現できなかったと思います。フェリーニの「道」のザンパノ役もそうでしたが、この役者の素晴らしさは、いくつもの相反するイメージを抱え込んでいるところです。粗野、無教養、不潔、女たらし、乱暴者、守銭奴、恥知らず、狡猾、計算高い、不実、そんなマイナスイメージを表現する一方で、人情、明るさ、不屈、強さ、知性、愛情、気高さ、本能的な誠実、などのプラスイメージをも強烈に放っているのです。
今でこそ「ユーロ」の出現で緩やかに均一化しているヨーロッパですが、50年前の英国とギリシャの間に、今とは比べ物にならないくらいのカルチャー・ギャップがあっただろうことは想像に難くありません。英国人の目に映る、自分たちの価値観が通用しない得体の知れない土地、クレタ島。それを体現しているのがゾルバです。
混乱、不信、恐れ、失意をめまぐるしく体験しながら、世間知らずの英国青年が次第に天衣無縫なゾルバに心を開いていく様子は、いわゆるアングロ=サクソン系ヨーロッパの厳格峻厳な価値観が、南欧風の運命論や多神教の匂いが濃厚に残る価値観に出会って、困惑しながらも存在を認めていくイメージと重なります。
少しばかりポルトガルにも詳しくなった今、この映画をあらためて見てみると、ヨーロッパの北と南は違うのだとひしひしと感じます。日本人のもつヨーロッパのイメージは、かなり北に偏っているかもしれません。イスラム文明と濃厚な接触があったイベリア半島、世界に向けた港を擁した地中海世界、このあたりの面白さはちょっと趣を異にします。膨大な歴史に頭をつっこむ面白さ、とでもいいましょうか。
…これはまた映画とは別な話ですが。
ゾルバ、もし機会があったら観てみて下さい。笑える、手に汗にぎる、ハラハラドキドキする、という類いの面白さではないんですが、不思議な魅力があるのです。
by poirier_AAA
| 2010-02-23 20:09
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